前々回、歯科領域で懸念すべき菌をあげた

➀Streptococcus Anginosus 属 (グラム陽性連鎖球菌)
➁Peptostreptococcus 属 (嫌気性グラム陽性球菌)
➂Prevotella 属 (嫌気性グラム陰性桿菌)
➃Fusobacterium 属 (嫌気性グラム陰性桿菌)

これらに選択的に効いて、なおかつ抗菌スペクトルの広くないものを選びたい。

まずはβラクタム環を有するセフェム系について。
第三世代セフェムは歯科で今もっとも処方されている抗菌薬。
実用された時期により、第一世代から第五世代まである。
歯科で適用になっているのは、第三世代まで。
別に世代が新しいからといって、よく効くわけではない。

セフェムは世代が進むほど、グラム陰性桿菌に強く、グラム陽性球菌に弱いという特徴がある。
グラム陽性球菌に弱いといっても、効かないわけではなく、一応効く。
ただしペニシリン系のように強烈に効くというわけではない。

第三世代セフェムはバイオアベイラビリティが悪い、噛み砕いて言うと、吸収されにくい。
例をあげると、フロモックスで35パーセント、メイアクトで16%しかない。
そのため血中濃度が上がりにくく、効果があがりにくい。

第三世代セフェムがいまいちなのは、経口の場合。
吸収の関係ない、100%血中に入る点滴セフェムになると、一気に使い勝手はよくなる。
黄色ブドウ球菌・肺炎や尿路感染・緑膿菌・MRSAなど、セフェムの種類によって様々だが、病棟では欠かせない抗菌薬となる。
つまり、第三世代セフェムは、重度の感染症で、点滴でガツンと使う抗菌薬。

なぜ第三世代セフェムが人気かというと、内科の方で結構成績が良好なので、歯科でも奨められているきらいが強いように感じる。
しかし、医科と歯科では相手にしている菌が違う。
実はグラム陰性桿菌は、横隔膜の上か下かで全く異なる。
例えば大腸菌はセフェムに対して良好な感受性を示すが、➂のPrevotella 属にはそれほどではない。
つまり、歯科領域にとって第三世代のセフェムは、狙わなくてはいけない細菌に対してはそこまで殺傷力が強くなく、狙わなくてよい細菌に対しては殺傷力が強いという、非常に相性の悪い薬なのだ。
そのため、第三世代のセフェムは、大腸で菌交代を誘導し、偽膜性腸炎を引き起こす

実は、第三世代セフェムは海外ではエビデンスに乏しいとされ、ほとんど使用されない。
低濃度で広域に細菌をカバーするため、耐性化を招きやすいという大欠点もある。
日本で大量に使用されるのは、ほとんどが誤用とされている。

ではなぜ、第三世代セフェムを処方する歯科医師が多いのか。
耐性菌が多いのが、➂のPrevotella 属であり、第三世代セフェムは約20パーセントが耐性菌。
➀➁➃については強力な効果はないが、耐性菌はなく一応効く。
歯科医師からすれば、めちゃめちゃ効くわけではないが、それなりに効くという感覚で、みんな使っているからとりあえず出しておけ、という感覚だろう。
もちろん、薬価の高い薬を売りたいMR(医薬情報担当者)がいいように勧めているのも、使用している一因だ。

ただし、第三世代セフェムがはまる適用がある。
それは、授乳中の投薬。
海外のデータでは、セフジニル(製品名セフゾン)は、乳汁に全く移行しないとされている。
フロモックスでは、害はないものの、多少の移行はありとなっている。
当院でも、授乳を中断しなくてよいよう、セフゾンの用意がある。

続きます