当院には毎日たくさんの患者がいらっしゃる。
通常の人であれば、日常生活をしていても出会うことのないような人との接点があるのも、この仕事。
誰もが平等に病気になるのが、人間だからだ。
かのパナソニックの創業者、松下幸之助さんでさえ、あれほどの莫大な富の持ち主でも、入歯であった。
まあ、数百万という価格の入歯であったらしいが。
私の患者で比較的多いのが、医療関係者。
医者・看護師・薬剤師・整体師、はては歯医者そのものなど。
私のカルテには、専門職の場合には、私自身にそれとわかるようにしてある。
専門職の場合には、説明に専門用語を使用した方が楽なので、そうしてあるのだ。
私の治療は、流れでこうなってるから、ではなく、根拠に基づいて決定しているので、それを説明するのが、というか分かってもらえるのが半ば嬉しいというのが本音であったりする。
若いころは逆に何をやってるか丸わかりで緊張したが、経験とともにそれもなくなってきた。
かつて引退した歯科医の総義歯を作成した。
東大阪でも老舗で有名な歯科医院のOB.
最初に入っていたのは、ごくごく普通の下顎総義歯。
顎堤の吸収がひどく、困難なのはわかっていること。
まあ、相手が歯医者なので、了解を得て試してみたかった印象法やら、技法などを試しまくった。
印象法などでどれほど違いがでるのかなど。
ご協力頂いたので、通常の下顎義歯ではなく、吸着義歯にまで持っていった。
上顎の義歯のように、吸い付く様な辺縁設計をした義歯。
手間と時間がかかる自慢の一品、もちろん保険では作らない高額な義歯である。
私にはよう作れません、といっていた。
当然である、これが作れるようになるために修業時代はえらく貧乏したのだから。
(名医と呼ばれる先生のもとで、歯科助手より安い給料で何年も修業していたため)
整体師の先生には、四十肩を患った時に、その場でいじってもらった。
患者としてきた先生が、私を治しているのである。
どっちが患者か分かったものではない。
一番記憶に残るエピソードは、麻酔科のドクター。
近くの病院に勤務されていた。
前回の治療をキャンセルされたその先生、たいそうキャンセルされたことを気にかけてらした。(もちろん無断キャンセルではない)
医療関係者はキャンセルすることの大変さを知っている。
キャンセルすることで、その分の損失どころか、そこに入れられるはずだった分の機会損失も発生するから。
キャンセルしても、その間コンプレッサーなどの器械は回ってるし、多数のスタッフの人件費もかかり続ける。
ひとつのキャンセルを埋め合わせるには、相当ほかで仕事を頑張らないといけないのだ。
だから、私用でキャンセルなど、ありえない。
さて、治療も半ば、その先生に、そういえば今日はお仕事大丈夫なんですか?と聞いた。
先生曰く「いや、今、手術中なんですよ~。前回キャンセルしたし、申し訳なくって。」
そう、この先生は、長めの手術中に術中管理を器械に任せて出てきてしまっているのだ。
現在の管理器械はすごい、余程のことがなければ導入と離脱以外に麻酔医の仕事はない。
私も手術中に居眠りする麻酔医を何度も見ている。(設定しておけば、何かあればアラートするようにできる)
とはいえ、そのような問題ではない。
確かに申し訳なく思ってくれてるのはありがたい。
しかし声に出さずとも、まわりにいたスタッフ全員が心の中で、
「いや、帰れよ」
と思ったのであった。
続きます