20代の女性の甲状腺疾患の患者が来院され、治療をおこなった。
甲状腺の機能亢進症、いわゆるバセドウ病であり、眼球が出てきている。
どういうわけか、昔から私は甲状腺疾患の患者を診る機会が多い。

甲状腺はのど仏のあたりのすぐ下に存在する内分泌器官。
体を維持するのに必要な、甲状腺ホルモンを作り出す。
甲状腺ホルモンを介して、体の代謝や、交感神経を活性化させる働きをもつ。
ただし、甲状腺自体がコントロールをおこなっているわけではなく、脳下垂体前葉からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって甲状腺ホルモンの分泌が促進される。

脳下垂体前葉がコントロールをおこなっているかというと、ここもそうではない。
視床下部と呼ばれる部位から、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が放出されて、脳下垂体前葉から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌される。
視床下部こそが、人間の体の自律調整のコントロールセンター、中枢である。
視床下部からホルモンや交感神経、副交感神経を介し、人間の体調は総合的に調整されている。

つまり、甲状腺からの玉突き式の連絡経路に何らかの異常があれば、甲状腺は正常なホルモンの分泌ができない。
これが多くの甲状腺異常の主原因となる。
他には、甲状腺の腫瘍などによるホルモンの分泌異常や、甲状腺ホルモンの感受性の低下など。

では、甲状腺から分泌されるホルモン、甲状腺ホルモンはどのような働きを持つのだろうか。
甲状腺から分泌されるホルモンは大まかに2種類。
ひとつはトリヨードサイロニン(T3)、サイロキシン(T4)の複合体で、これが甲状腺ホルモンと呼ばれる。
高校の生物で習うチロキシンは、これの古典的なよびかた。

甲状腺ホルモンは、代謝を亢進する。
代謝は、おおざっぱにいうと脂肪や糖をエネルギーに変えること。
代謝の亢進は、体や頭脳を活動状態にする準備がととのえられていること。
加えて交感神経を刺激し、体を活動状態にもっていくアクセルのような働きを持つ。
ほかにも体の成長を促すような働きがあり、不足すると成長・発達に影響を及ぼす。
別の言い方をすれば、いわば体の「やる気スイッチ」みたいな働きをするのが甲状腺ホルモンなのである。

もうひとつ、甲状腺から分泌されるホルモンにカルシトニンがある。
こちらは甲状腺以外からも放出されるため、甲状腺ホルモンとはよばれない。
主な働きとしてカルシウムの交代にかかわる。
カルシトニンは血中のカルシウムイオンを骨への取り込みを促進、結果として骨の形成を促す。
別の言い方をすれば、血中カルシウム濃度を低下させるということ。

人間の体は、様々なホルモンや神経系が相互作用することでバランスが保たれている。
では、その平衡が崩れるとどうなるのだろうか。

続きます