大きな虫歯は何を使って修復するか。
多くの日本人は銀歯を連想するだろう。
しかし、銀歯は世界で日本でしか治療にもちいない。
海外の歯科医師たちは、日本人の口腔内を診るとびっくりするという。

実は、銀歯は代用合金。
本来なら金合金で治すべきところを、性質の劣る銀合金で代用している。

金合金は化学的に極めて安定し、操作性、硬度ともに理想的。
しかし金合金は非常に高価。
1960年代、国民皆保険が導入された際、まだ貧しかった日本に許されるのは、低廉な銀合金だった。
池田隼人首相の所得倍増計画より前の話、貧国ゆえ理想からはほど遠いが仕方なく採用されたという経緯がある。
夕張炭鉱が最盛期を迎えていたような時代の遺物。

そのさい、日本補綴歯科学会は反発した。
歯科医師の矜恃からすると、本来あるべき治療が曲げられるのだから当然であろう。
しかし、事情ゆえに受け入れざるをえなかった。
できるだけ早急に金合金へ移行するという条件つきで。
ところが60年近くの歳月が流れた現在も、未だ銀歯による治療がおこなわれている。

銀歯

銀歯

金合金

金合金

銀歯のどこがダメなのだろうか。
銀歯の組成は、銀(Ag)40~50%、パラジウム(Pd)20%、銅(Cu)15~20%、金(Au)12%。
他に亜鉛(Zn)、イリジウム(Ir)、インジウム(In)、スズ(Sn)など。

実は合金は腐食をおこす。
一見、合金は一様に混じり合っているのだが、顕微鏡像ではモザイク様に各金属が析出している。
御影石のように、結晶が入り混じっている状態。
酸素に触れても酸化(さびる)する金属がもあるが、これはさして問題ではない。
問題は、電池型腐食。

電池といっても、我々が日ごろ目にしているような乾電池ではない。
レモンに銅と亜鉛の棒をさし、電球をつなぐと発光する。
銅と亜鉛の金属の物性の差があるため、レモンの酸のもと、電池が形成されたのだ。
この電池は、発見者の名を取り、ボルタ電池という。

口腔内は、レモンを食べた時のみならず、強烈な酸が産生されている。
歯垢が、糖類をもとにして。
その酸は、歯をも溶かしてしまうほどの。
虫歯のメカニズムだ。

続きます