除去しにくい細菌のかたまり

リステリンやモンダミンなど、洗口剤は今やドラッグストアの一角で大きな割合を占めるに至っている。
その一方で、歯ブラシのコーナーが店頭から消える気配はない。
いったいなぜ、歯垢は洗口剤では落とせないのか。
今回は、歯垢の性質について解説していく。

歯垢の成分

歯垢の主成分は細菌であり、1㎎あたり1億とも10億とも言われるだけの細菌が住んでいる。
歯ぐきより上には、虫歯菌など酸素があっても生きていける細菌が多い歯垢が形成される。(縁上プラーク)
対して歯ぐきと歯の隙間である歯周ポケットでは、酸素を嫌う嫌気性の歯周病菌が多い歯垢が形成されやすい。(縁下プラーク)
いずれも歯や歯周組織に病原性を持ち、およそ7割が細菌で構成される。

いわば歯垢は細菌の固まりであるが、全てが細菌というわけではない。
細菌が自らの生活環境を維持するために、ねばねばした歯にくっつきやすい成分を作り出しているのだ。

ある種の細菌は、細菌の食べ物(基質)から、このような生活環境を維持するような物質を作り出す。
これを、バイオフィルムといい、口腔以外でも、流し周りのぬるぬるなどが、これにあたる。
歯垢はこのバイオフィルムの一種で、砂糖などが代謝されてできる不溶性グルカンという物質がねばねばの正体。

染色液で染めた歯垢
歯垢

不溶性グルカン

不溶性グルカンは、文字通り水に不溶の物質。
それゆえ、うがいでは除去することができない。
除去するには、歯ブラシなどで物理的にこそげとらなくてはならない。
これと細菌が一緒になったものこそが歯垢である。

バイオフィルムとしての歯垢の特性

歯垢はバイオフィルムであるゆえに、接している組織から離れず、病原性を示す。
砂糖を摂取すれば、不溶性グルカンがつくられて歯垢が生まれ、歯垢中の細菌により酸がつくられて歯を溶かしていく。
また、歯と歯ぐきの間などに歯垢があれば、歯周病菌により、歯周組織は破壊され、歯周病が進行していく。

また、バイオフィルムは高い薬剤耐性を持つ。
バイオフィルム中の細菌を倒すには、バイオフィルム外で細菌を倒すのに必要な抗生剤の量の、1000倍ほど必要になる。
つまり、不溶性グルカンで守られた歯周病菌などを抗生剤で倒すのは難しいということ。
例外的に、マクロライド系抗生剤はバイオフィルム突破能を持つものの、耐性菌を誘導してしまうため、問題視されている。(詳しくはこちら

総論

歯垢は、その不溶性ゆえに機械的な除去が必要。
薬品やうがい薬などでは、とることができない。
また、放置すれば唾液中のハイドロキシアパタイトと結びついて歯石を作り出す。
歯石は歯磨きでは除去できず、歯医者での除去が必須。
そうなる前に、しっかり磨いて歯垢をため込まないことが重要だ。