フッ素は歯に良いということを聞いたことはないだろうか。
単にフッ素といっても、自然界に単体で存在することはありえない。
原子番号9番のこの元素は、単体では爆発的な反応性があり、猛毒でもある。
歯に使うフッ素や、フッ素加工のフライパンなどはフッ素の化合物を利用したもの。

歯の成分は永久歯のエナメル質(表層)で、96%がハイドロキシアパタイトと呼ばれる無機質で構成されている。
乳歯はハイドロキシアパタイトが70~80%程度と低く、有機質に富んでいるため虫歯にかかりやすい。
ハイドロキシアパタイトは、Ca10(Po4)6(OH)2 の分子式で表される。
この水酸基 (OH)2 が(F2) に置換されたのがフルオロアパタイト。

フルオロアパタイトはハイドロキシアパタイトに比べ、耐酸性が高いためう蝕に対する抵抗性を持つ。
実はフッ化物は天然に広く存在し、萌出した歯牙はそれを取り込みながら表面性状がフルオロアパタイトに変わっていく。
食卓塩から牛乳、魚、肉、野菜など様々なものに含有しているが、特にお茶の葉に多く含まれる。
萌出したての歯牙はフルオロアパタイトに乏しいため、小学生は虫歯にかかりやすいというわけだ。

そこで人工的にフッ素を添加しようというのが、フッ素塗布。
フッ化ナトリウムなどの製剤を歯牙に塗布し、しばらくおくというもの。
これで歯牙表面のエナメル質のフルオロアパタイト化を促す。

フッ素に毒性はないのだろうか。
実はフッ素は必要濃度と中毒濃度の差が極端に狭い。
つまり、使い方次第では、中毒を起こす。
そのため、歯磨き粉を含むフッ素含有製品には厳しい基準がある。

濃度をあらわす単位として、ppmがある。
ppmは、parts per millionの略で、日本語では百万分率といい、1ppmは百万分の1。
日本では、歯磨き粉の上限が1500ppm(昨年改定)、歯科医院で使う製品では9000ppm。
英国産のものでは20000ppmのものさえある。

フッ素の中毒量は、約5~10mg/kg、消化器症状は約3~5mg/kgで生ずるとされている。
これは、小学1年生の平均体重20キロではそれぞれ、100~200mg、60~100mg程度。
分子量42のフッ化ナトリウム換算では、Naの分子量23に対しFの分子量が19であるから、220~440mg、132mg~220mgとなる。
9000ppmの歯科医院向け製材なら、100グラム当たり0.9グラム・900mgのフッ化ナトリウムが入っている。
間違ってチューブから直接飲んだりすると一大事。
そのため小児用の歯磨き粉は900ppmにまで抑えられている。
これならば100gあたり90㎎のフッ化ナトリウム量なので、間違って食べてもぎりぎり大丈夫な値。
個人輸入で高濃度のものを素人が使用するのは、危険。

他にフッ素が歯に与える影響として、歯のフッ素症がある。
これは、歯の発生過程のエナメル質形成期にフッ素を飲料水などから大量に取り込むとおこる。
軽度のものは歯の表面が白濁する程度であるが、重度のものでは歯に茶色い斑点が出現する。
これは、飲料水の源泉中に氷晶石と呼ばれるフッ化物の鉱泉があった場合などにおこるもので、日本では心配ない。
フッ素症の歯の研究中に、フッ素症には虫歯が少ないことより、虫歯予防にフッ素が効くことが発見されたのだから皮肉なもの。
歯磨き粉やフッ素製剤の使用でフッ素症がおこる心配はない。

当院では、小児の歯科受診での口腔清掃の際のフッ素塗布を無料でおこなっている。(保険外で有料のところが多い・大阪歯科大なら2160円)
かかる費用は、保険の口腔清掃その他のみ。
子供医療の範囲内でおさまるので、虫歯にさせないためにも受診をおすすめします。

当院で使用しているフッ素

フッ素製剤

歯とフッ素 完