ミレニアムな入れ歯

3年前のこと。
97歳の男性が、上顎の総義歯と下顎の部分床義歯の作成のために来院した。
下顎は左45右345と小臼歯部が残存している。
保険の通常の義歯を作成。

私にとって、97歳は最高年齢。
文字通り最終補綴物になるのかな、と思ったりもした。

ところが、先日3年ぶりに来院された。
年齢は100を超えているが、杖すらつかず、かくしゃくとしている。
レセコンに3桁の年齢が表示されたのを、初めて見た。
右5番のクラウンが脱落したので再製を希望で。
義歯は見事に摩耗、相当使いこんだ印象。

97歳時作製の入れ歯
100歳の入れ歯

かなりの摩耗がみられる
入歯の摩耗
摩耗した入れ歯

安定のよい入歯には

100歳でも食事を十分にできるにはワケがある。
それは、下顎に残った小臼歯群。
これがあるからこそ、十分に食事ができ、長生きできているといえるだろう。

入歯において上顎は、総入歯でも吸着が得られるため十分な安定が得られる。
ところが下顎はそうはいかないことが多い。
保険の下顎総義歯はまず吸着が得られないといってよい。(当院では保険外では吸着義歯の扱いがある)
そのため、咀嚼能力は全ての歯があるときの1~2割。
高齢者が食事に時間がかかるのは、このような事情があるためだ。

吸着が得られないため、下顎においては歯牙の残存が咀嚼能力を大きく左右する。
まんべんなく残っていれば、残った歯にバネをかけることでかなり咬めるが、大臼歯部だけや、前歯部だけ、片側だけだと入れ歯は固定側が偏ることで、バランスを崩して非常に咬みずらい。

しかし、両方の歯列の中央部に残っていれば、入れ歯は非常にバランス良く安定する。
その部位こそ、小臼歯。
AIデンチャーなどでは小臼歯部が残っていれば、全ての歯があるときの80%程度にまで回復する。

小臼歯部が残った症例(AIデンチャー)
小臼歯部残存症例

十分な咬合力と、気付かれにくさを実現
AIデンチャー小臼歯部残存

小臼歯治療の問題点

実は小臼歯部の残存率は、今の日本では結構悪い。
理由は、保険診療における代用歯にある。
本来であれば、歯科治療は精度や清掃性に優れたセラミックか金合金でおこなうべきもの。
それに対し、保険の金銀パラジウム合金や一昔前のレジンジャケットクラウンは、二次う蝕や歯周病に対して脆弱。
そのため、70代以降、急速に残存率が低下する。
セラミックなどで自費治療をした歯と保険治療とでは、年齢が高齢化するほど目に見えて状況が乖離していく。

小臼歯を長持ちさせるには

小臼歯のみならず、ある程度の年齢では、歯科での定期的なメンテナンスと日ごろのお手入れが重要。
だいたい歯周病の発症年齢である40代以降では、必須であるといってよい。
ブリッジなど連結がある場合は、悪くなっていることに気づかないような場合があるので要注意。
とくに、今や予後が悪く、保険治療から消えたレジンジャケットクラウン(一昔前の保険の白い歯)は早めに別のものにやりかえてもらった方が良いだろう。

入れ歯と小臼歯 完