先天性障害の元凶・風疹
前回、エナメル質の減形成の原因のひとつに、風疹があることを書いた。
エナメル質減形成のみならず、様々な先天性の障害を引き起こす風疹は、いったいどのような疾患なのかをとりあげていく。
風疹とは
風疹はウイルス性の感染性疾患。
風疹ウイルスは一本鎖のRNAウイルスで、主に飛沫感染などでうつる。
感染力は麻疹やVZV(水痘)ほどは強くないが、不顕性感染が多いため、時に流行をおこす。
2008年に、医療機関による届け出が必要な5類感染症に指定され、全数把握されるようになった。
潜伏期は2~3週間で、発熱・発疹・耳介リンパ節の腫脹などがおこる。
大人がかかると、小児より症状が重くなる傾向がある。
が、症状の出ない不顕性感染が15~30%ほどあり、症状がないながらもウイルスを放出して感染を引き起こす。
予後は良好である場合がほとんどだが、血小板減少性紫斑病や急性脳炎などの症状が5000人に一人程度合併症としておこる。
風疹は発疹を伴うが、全くの無症状であることも多い
先天性風疹症候群
風疹で問題になるのは、風疹ウイルスが、強い催先天異常性を持つことである。
風疹による先天異常は先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome、CRS)と呼ばれる。
妊娠初期(20週まで)の妊婦が風疹に罹患すると、高頻度でCRSが発症する。
妊娠から20週というのは、受精卵が分化を開始し、胎児のパーツがつくられていく期間。
それ以降は安定期になり、完成した胎児が大きくなっていく期間。
つまり、分化している期間に風疹が母子感染することが、CRSを引き起こす。
分化の程度が低いほど影響を受けやすく、妊娠4週で50%以上、8週で35%、12週で18%、16週で8%と、妊娠初期では極めて高率。
不顕性感染で、風疹にかかった自覚がなくても引き起こされる。
風疹は、胎児の重篤な感染症といって良い。
症状
CRS の三大症状は、先天性心疾患、難聴、白内障。
他の障害としては、肝脾腫、血小板減少、糖尿病、網膜症、発育・発達不全などがある。
CRSの歯牙障害
見過ごされがちなのが、乳歯エナメル質減形成。
前回解説したこの障害、実は高確率に発生する。
そもそも、CRSの症状として取り上げられている文献の方が少ない。
乳歯のエナメル質減形成(写真は非CRSのもの)
参考にできる文献は、実は世界にも数えるほどしか存在しない。
昭和48年に、沖縄の聾学校で風疹による難聴の対象者に対して、日本小児歯科学会で発表された論文がある。
それによると、一般児のエナメル質減形成発生率が2.9%なのに対し、CRS児では48.6%に及んでいる。
歯の形態異常は、一般児2.6%に対し、CRS児は38.5%。
ドイツの文献では、CRS児の90%以上にエナメル質減形成がみられるとされている。
これは、風疹にもいくつかの遺伝子型の異なるタイプがあり、その影響などもあると思われる。
古い時代、遺伝子解析能力のほとんどなかった時代にその差異の原因を探るのは酷というものだろう。
風疹の再流行
平成24年、25年にかけて、日本で風疹が流行し、今年の7月から再び流行がおこっている。
なぜ、今、風疹が流行しているのか。
風疹は一回かかったり、ワクチンを打っただけでは抗体がつくられない可能性がある。
2回法で接種するようになったのは1990年以降に生まれた人だけで、意外と最近になってからのことなのだ。
実は1979年より前に生まれた男性、1962年より前に生まれた女性は、風疹ワクチンの接種は任意。
1979年から1990年に生まれた人は、一回法で、医院に出向いての接種のため、接種されていない人がいたり、抗体ができていない場合がある。
これらの年代の人が、風疹にかかる可能性が多いということ。
28歳より上の女性については、妊娠時に風疹にかかる可能性がある。
晩婚化がすすみ、まだまだ出産する年齢だ。
我々がおこなうべきこと
妊娠前の女性と、その家族は、風疹のワクチンを受けたり、抗体価検査を受けることだ。
もちろん、これから祖母祖父になろうかという人も。
自覚症状がない不顕性感染でも、妊婦が近くにいればうつしてしまう可能性がある。
ワクチン接種は、世間ができる将来の子供たちへのプレゼントなのだ。
風疹 完