病原体にはいくつかの種類がある。
代表的なのは、細菌、ウイルス。
他にはリケッチア、真菌、スピロヘータ。
マラリアなどの原虫などや、ヤコブ病の原因のプリオンというタンパク質も病原体にあたる。

ウイルスは病原体であっても、生物ではない。
極めて小さく、光学顕微鏡下で見ることはできない。
驚くべきことに、精製が可能で結晶化できる。
これは物質であるため。
生物であるためウイルス自身は自己増殖能をもたず、侵入した細胞を利用して自己複製をおこなう。
生物ではないが、遺伝情報を持ち、細胞の遺伝情報を自己のものに置き換えてウイルスをつくらせる。
遺伝子の本体は多くはRNAだが、単純ヘルペスウイルスなどはDNAウイルスである。
RNAウイルスは変異が早い、毎年インフルエンザが流行するのは、RNAウイルスであるためだ。

ウイルス疾患はたくさんあれど、歯科領域にかかわるのはごく一部。
厄介なのは、ウイルスは感染すると体内に潜むこと。
体力が低下したりすると増殖して症状を出す。

単純ヘルペスウイルスはほとんどの人が罹患している。
風邪などで体力が落ちると、口角や口腔内に口内炎ができる。
ミラーで口唇などを引っ張ると痛いので、治療の妨げとなる。
小児の初感染時に高熱と口内炎が多発することがあるが、頻度は高くない。
治療は対症療法。

帯状疱疹ウイルス(HZV)は神経に潜むウイルス。
水ぼうそうの原因で、寛解後も神経に好んで潜む。
三叉神経に潜んでいると口腔内に水泡をきたすことがある。
潜伏している神経の支配領域のみに疱疹がでるので鑑別は容易。
抗ウイルス薬アシクロビルが有効、これにステロイドを組み合わせると著効だが、医科での適用。

コクサッキーウイルスによるヘルパンギーナは高熱と口腔の多発性潰瘍。
抗ウイルス薬は無効で、対症療法のみ。

ムンプスウイルスは流行性耳下腺炎をひきおこす、通称おたふく風邪。
あまり歯科には来院されない。

コクサッキーA16ウイルス、エンテロウイルス71は小児に手足口病の流行をもたらす。
昨年は特に流行がひどかった。
感染者を隔離することが大切。
発熱と、手足の皮膚に小水疱をきたす。
口腔内症状としては、小水疱が崩壊し、口内炎を多数つくる。
これもまた、対症療法のみ。

ウイルス疾患は基本的に対症療法が主である。
抗生剤が効く相手ではないので、投与は無効。
それどころか、菌交代をおこして下痢でもしようものなら、脱水症状などになりかねない。
しっかり休む、これが一番の治療である。

口腔疾患とウイルス 完