妊娠すると歯が溶ける?

出産後のお母さん。
ずいぶん虫歯がみられる。
赤ちゃんにカルシウムとられて、歯が弱くなったんですかね、とおっしゃる。

妊娠すると歯が弱くなるのだろうか。
答えはNO。
今回は、カルシウムの話。

カルシウムの役割

カルシウムは、骨などの硬組織を構成するだけでなく、イオンとして体内の恒常性に不可欠である。
筋肉の収縮・神経の興奮・止血や酵素の活性その他の生体機能の維持の役割がある。

全ての生物は、カルシウムが無ければ生きてはいけない。
海の中の生物は、海中に豊富に存在するカルシウムを簡単に取り込むことができる。
しかしながら、陸上に上がった生物はそうはいかない。
動物であれば、血中に一定量のカルシウムを維持して、細胞など必要な個所にカルシウムを取り込めるようにする必要がある。

全ての生物はカルシウムがなければ生きてはいけない
カルシウム

カルシウムの調整

陸上の生物は、生体内のカルシウムは放っておけば常に減少傾向にある。
それゆえ、常に生体内のカルシウムを増やして一定にする調整系が存在する。
なお、海中の生物は体内のカルシウムが増大する傾向があり、カルシウムを排出する調整系が中心である。

カルシウムが常に変動する体内。
これを一定にする源こそ、骨である。
体内の99%のカルシウムが存在する骨は、カルシウムを貯蔵するダムの役割をしている。
このダムからカルシウムを取り崩して、体内のカルシウムを一定にするのだ。

カルシウムの代謝に関わるホルモン

腸管から吸収されるカルシウムが尿などへの排出を上回ると、甲状腺の濾胞傍細胞から分泌される、カルシトニンというホルモンの作用を受けて、カルシウムは骨中に蓄えられる。
カルシトニンは、血中のカルシウム濃度を下げ、骨へのリン酸とカルシウムの沈着を促す。

血中のカルシウムの不足は、副甲状腺により感知される。
副甲状腺は、パラトルモン(PTH)とよばれるホルモンを分泌し、血中へのカルシウムの濃度を上昇させる働きがある。
また、パラトルモンは腎臓でのカルシウムの再吸収や、ビタミンDの生合成を促進する。
日光浴などで、コレステロールから生合成されたビタミンDは、腸管でのカルシウムの吸収を促進させる。
なお、生合成されるビタミンDは、必要量には届かないため、食物による摂取は不可欠。

血中カルシウムの低下にかかわるカルシトニン、上昇にかかわるパラトルモンとビタミンD、これらが拮抗して体内のカルシウムのバランスは保たれている。
まぎらわしいのが、パラトルモンにより血中のカルシウムを上昇させると骨のカルシウムが減ること。
ビタミンDは腸管での吸収を促進するが、骨からカルシウムを引き出さないということである。

続きます