舌が痛い

何もないのに舌が痛い

70代女性。
耐えがたい舌の痛みを訴える。
ロキソニンを飲むと痛みは消失するという。

もう何年も体調が悪く、臥せりがち。
チアノゼアジピンなどの精神安定剤などを各種服用している。

舌を精査するも、特に異常な所見はない。
舌痛症の可能性がある。

舌痛症とは

舌の不定型な痛みを主訴とする、原因不明の疼痛とされる。
そのため、精神的な部分が強調され、神経内科へ送る歯科医が多い。
舌が痛い=舌痛症というわけではない
あくまで原因のわからない不定型なものを舌痛症という病名で分類しているだけである。

原因を探れ

ただ舌痛症と片付けてしまうのは面白くない。
残念なことに日本の歯科医はすぐに舌痛症と診断し、自らの治療を投げてしまうきらいが強い。
実際はきちんと精査すれば、原因の確定できるものは相当数あると考えられる。

そもそもロキソニンが効いている時点で、中枢系の痛みである可能性は低くなる。
確かに局所的な痛みが存在していると考えるのが、妥当である。

細かい問診

このような症状の場合、患者の生活を知ることが重要。
どのような生活をしているかは、疾患の特定に欠かせない。

この患者に関するいくつかの特徴が浮かび上がってきた。
・臥せりがちになってから10キロ以上太った。
・いびきをかく。
・向精神薬の服用
・鼻で呼吸できず、口呼吸になっている。

これらの特徴で浮かび上がる疾患は、口腔乾燥症。
痛みを伴うことがある。

向精神薬は唾液の分泌を低下させる。
加えて肥満は上咽頭部の狭窄で、鼻呼吸を阻害する。
いびきは、その証拠といって良い。
朝起きると、口がカラカラになっているということは、口呼吸による口腔乾燥症そのものの症状。

治療

口腔乾燥症の対策を考える。
唾液の分泌を促す漢方は、シェーグレン症候群などの唾液分泌能低下には有効であるが、口呼吸にはあまり効果がない。
下顎位を前方に出すスプリントは、総義歯に近い口腔内では無理がある。
年齢も考えると、対症療法が妥当と考えられる。
要は、できるだけ口腔内を潤すこと。
細かいうがいや水分摂取を指示し、プラチナノテクトを処方。
プラチナノテクトは、基材のグリセリンによる口腔内の保湿を狙ったものだ。

おかしな妙薬

プラチナノテクトという含嗽剤(うがい薬)。
私がいた、北大歯学部第一保存科が、北大工学部とつくりだしたうがい薬。
不思議なことに、どうにも原因がわからない不定愁訴に劇的に効果があることがある。
成分はグリセリンの基材に、白金ナノコロイドを配合したもの。
もともとは、口腔洗浄用であるが、前癌病変である白板症にも効果があることが京大医学部の研究でわかっている。
どうにも原因がわからない時、とりあえず出してみることがある。

プラチナノテクト
プラチナノテクト

予後

プラチナノテクトは相性が悪かったらしく、うがいをするとしみたので2日で中止したとのこと。
しかし、再来院時には痛みは引いたので経過観察とした。

今回のように、口腔乾燥による不定愁訴は意外と多い。
とくに更年期以降の女性は、咀嚼時などの活動時唾液は普通だが、安静時唾液のみ低下する場合があり、鑑別できずに見落とされるケースが非常に多い。
いかに、個人の生活史を知ることが大切であるかということである。

舌痛 完