みにくいあひるの子

学童期の初頭、小学1年生ともなると、前歯が生え変わる。
生え変わりの順番は、下の前歯が先、次いで上の前歯が生え変わる。

この上の前歯が生えてくるとき、歯がハの字に生えてくるのだ。
そこで、あわてて歯医者に子供を連れてくる親御さんが結構な頻度でいる。

前歯部の離開

実はこの離開、おかしなことではない。
生えてきたばかりの上顎中切歯は、通常外側にふった状態で萌出する。
その後、側切歯、犬歯が生えてくることで、隙間は閉じる。
ちょうど、がらがらの電車にバラバラに座っていたのが、混んでくるとピタッと接して座るようになるようなもの。

このような正中離開の時期を、歯科用語で、みにくいあひるの子時代と呼ぶ。
海外で、ugry dackling stage と呼んだものを和訳したものだ。
つまり、最初は見た目が悪いが、成長とともに美しくなるというもの。

離開して生えてきた中切歯
みにくいアヒルの子

離開が閉じない場合

このように離開した中切歯は、多くは時がたてば閉じる。
ところが、約10%の学童が、閉じずに開いたままとなる。

原因は、真横に生えてくるべき側切歯がずれて生えてしまった場合など。
側方圧を受けて閉じるはずが、十分に力を受けれなかった場合、歯は開きっぱなしとなる。

ずれる原因はいくつかある。
乳児期に乳切歯などが虫歯などで根尖病巣をつくると、生え変わる代生歯の歯胚(歯のタネ)はそれを避けるように位置してしまう。
また、舌を前に出す習慣があれば、歯は容易に押されて突出する。
唇と歯ぐきをつなぐヒレ(上唇小帯)が間に入り込んでいれば、歯は閉じようにも閉じれない。

側切歯のずれによる離開したままの中切歯
正中離開

離開を予防する方法

上記のような原因を、萌出前に解決することが重要である。
前歯の虫歯は、神経が死んでしまったらできるだけ速やかに感染根管治療をおこなうか、抜歯する。
舌を出す習慣はなかなか気づきにくい、萌出期にその傾向が見られたら、タングガードと呼ばれる悪習癖対策装置などで習慣を矯正する。
上位付着した上唇小帯は、口腔外科の心得のある歯科医のもとで、理想形態に形成手術する。
原因を取り去らなければ、歯は間違いなく離開してしまう。

離開の治療

離開がみとめられれば、兎にも角にも、早く歯科医を受診すること。
基本的には歯科矯正治療がメインとなるが、上唇小帯がらみであれば、早期であれば無矯正で治療可能となる場合がある。
例え矯正になったとしても、成長がすすんで永久歯歯列が完成に近づくほど、治療は大がかりになり、費用も掛かる。

総論

学童期の中切歯の正中離開は、心配すべきものではない。
時が来れば、自然と閉じる場合が大部分。
とはいえ、約1割は離開が消失しない。
これを防ぐためには、歯の交換期にはきちんと定期的な受診が必須。
お子様の将来のために、できるだけ気を付けてあげたい。

生えてきた前歯の隙間