ボルタレン、ロキソニン。
近年薬局でも購入が可能となった、第一類医薬品。
大きなドラッグストアなどで、大々的に宣伝されているのを目にしたことがあるかたも多いのではないだろうか。
第一類医薬品は、薬剤師のいる薬局でしか買えない、大き目な副作用などが懸念される薬である。
処方箋がいらないので、医師の診察抜きで買えるが、少々高い。
消炎鎮痛剤として効果の高いこれらの薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる薬剤。
疼痛、発熱、炎症に効く。
非常に汎用性が高く、医師・歯科医師は痛みや発熱の第一選択薬として用いる場合が多い。
ただし、下痢の時の腹痛などには効かない。
あれは腸の過激な蠕動運動でおこる不随意筋の筋肉痛のようなもの。
炎症とは、体内の非特異的防御機構の一部で、治癒回復を促進する大事な生理機構。
ただ、炎症には炎症の5徴候とよばれる、腫脹・疼痛・発赤・発熱・機能障害の徴候がおこる。
当然ながら、治癒に必要とはいえ、これらの症状は不快なもの。
なので、少々炎症は黙っていてもらおう、というのがNSAIDs。
体内で炎症を誘導する物質に、プロスタグランジンがある。
炎症の誘導には、アラキドン酸カスケードという連鎖反応があり、その一部に、
アラキドン酸 → プロスタグランジン
という経路がある。
この変化には酵素であるシクロオキシダーゼ(COX)が関与する。
NSAIDsはここをブロックすることで、炎症がおこることを阻止する。
これにより、炎症の徴候である疼痛・発熱・炎症を止めるのがNSAIDsの作用機序である。
ところがプロスタグランジンには炎症を誘導する以外にも役割がある。
胃が胃酸により溶かされないようにするための、防御作用に関与しているのだ。
障害された胃腸の粘膜の修復や治癒こそが、プロスタグランジンの役割である。
そのため、胃腸障害などにより防御力の弱い人や、高齢者ではNSAIDsの服用により、粘膜の修復が遅延してしまう。
結果、消化管出血や胃潰瘍といった症状が発生する。
特に関節炎などでNSAIDsを長期投与(3か月以上)されている患者は、胃腸の潰瘍の有病率は15パーセント以上に上る。
これは、消化性潰瘍の原因としてピロリ菌に次ぐ第二位という数字。
胃潰瘍に満たない胃炎は実に半数近くにも及んでいた。
歯科において、NSAIDsは抜歯や歯痛で必ずといって出される第一選択薬。
あまりにもありふれている割には、それに留意する歯科医師は少ない。
少なくとも消化器疾患の有無を把握し、問題があるならアセトアミノフェン(カロナール)等に差し替えることは必要である。
痛みが落ち着いたら速やかに服用を停止し、予防的に服用することを控えるくらいのことは指示すべきだろう。
医科も含め、現在の日本の保険システムでは、昔ほどではないが薬の処方が医院経営に欠かせない。
そのなかでもNSAIDsは効果が明瞭で出しやすい薬といえる。
ピロリの除菌が進んだからこそ、今後はNSAIDs由来の消化器障害の比率が増加すると思われる。
炎症というのは、治癒回復を促進する生理機構。
原因の除去こそ大切なことであり、炎症そのものを全否定することは理にかなっていない。
耐えられない痛みや、発熱に使う分には仕方がないが、必要以上に使うことは避けるべきであろう。
これはNSAIDsに限った話ではない、薬全般にいえること。
人間の体には防御力を含む素晴らしい生理機能が備わっている、不要過剰な薬の使用ではなく、治癒の手助けをする程度の使用こそが望ましい。
鎮痛剤と胃腸障害 完