インプラントの適用年齢
野崎は鹿児島出身の人が多い。
どうも昔、集団就職で来阪した人たちが、ここらへんに多く住むようになった経緯があるようである。
当院の患者さんも、何人か鹿児島出身の人がいらっしゃる。
その中の一人に、3月3日の鹿児島県人会のイベントのチラシをいただいた。
京セラドームで、物産展や鹿児島関連イベントが行われ、3万6千人もの人が来るという。
関西の鹿児島県人が集まる一大イベント。
焼酎の試飲が一杯百円など、非常に魅力的なイベントだ。
魅惑的な鹿児島県人会
さて、問題はここから。
その患者さんの知り合いが、石切界隈の歯医者にて、一番良い治療を希望したところ、上下額で一千万ぐらいの額を提示されたという。
何でもずいぶん不動産をお持ちの方らしい。
そんな治療って、あるんですかという。
答えは、ある。インプラント治療。
なくなった歯を全てインプラントに置き換えると、歯の本数によってはそれぐらいになる。
チタン製の人工歯根で、手術で骨に埋め込むことで、上に乗る人口歯を支える。
入れ歯のように着脱がいらず、元の自分の歯と同じような咬み心地が得られるのが、メリット。
インプラントの値段は、標準的なものであれば、30万~50万円くらい。
歯の総数は28本であるから、諸費用含めるとそれぐらいはいくだろう。
ところが、問題は、その患者の年齢。
80台前半だという。
インプラントの弱点
インプラントは第二の永久歯などと吹聴する歯科医がいるが、実態はそれとは程遠い。
普通の歯は、歯ぐきとの間に、結合組織性付着と呼ばれる、コラーゲン繊維を介した強固な結合がある。
これが、外界からの細菌の侵入等を防ぐ。
対して、インプラントは骨とはくっつくが、歯ぐきとはくっつけない。
このことが、十分にお手入れができないと、骨への細菌の侵入を許すことの原因となる。
度重なる細菌の侵入は、インプラント周囲炎を招き、周囲の組織の悪化をもたらして、インプラントの維持を不可能にする。
そうなると、手術によりインプラントを撤去しなくてはならない。(詳細はこちらに詳しい)
高齢者のインプラント
問題は、この高齢者の今後の健康状態にある。
もし、痴呆や、脳梗塞などの疾患で自身でのお手入れができなくなったらどうなるか。
いきつく先はインプラント周囲炎、そしてインプラントの撤去に他ならない。
インプラントの撤去は、埋入よりもはるかに大きな侵襲を伴う。
破壊された歯槽骨には、満足にかめるような入れ歯を入れるのは不可能だ。
そもそも循環器などの基礎疾患などによっては、撤去自体が不可能な場合すらある。
そうなると、ただただ抗生剤と鎮痛剤を投与するのみ、という最悪の事態になる。
激烈なインプラント周囲炎
なぜインプラントが推されるのか
歯医者がインプラントを入れたがるには、歯科業界に根本的な問題があるから。
保険治療の診療費はここ20年以上、ほとんど変わっておらず、保険診療のみで歯科医院の維持は難しい。
そのため、高額なインプラント治療は、歯科医院にとっては救世主。
それゆえ、インプラント治療の適用を、本来入れてはならない範囲にまで広げる歯科医院が、非常に多い。
今回のケースは、まさにそのような方針の歯科医院にあたったためだといえるだろう。
総論
確かに、現在健康で、インプラント治療ができれば、直後は実に快適に食生活がおくれる。
しかし、人生最後まで健康でいられる人は一握りだ。
健康が失われた状態を想定し、そのような状態でも、何とか最低限の生活がおくれる、それこそが医療ではないかと私は考えている。
体を取り巻く状況にあわせ、上手に年を取っていくのも、豊かな健康生活を送るうえでは必要だと思う。
くれぐれも、歯科医院の選択は慎重に