あってはならない診断
タレントの堀ちえみさんが、ステージ4の口腔ガンで闘病中とのニュースがあった。
昨年の夏に、口内炎様の症状ではじまったというが、早期の発見はできなかったのだろうか。
今回の対応について、検討していく。
舌がんとは
舌の後方の有郭乳頭より前方に発生するガンで、舌縁・舌下に好発する。
形状としては、びらんや潰瘍、膨隆といったタイプが大部分を占める。
所属リンパ節への転移は、30~40%と高め。
腫瘍マーカーへの感度は高くない。
ステージ4での5年生存率は、約30%。
ガンが判明するまでの経緯
堀ちえみさんが、ガンと判明するまでの経緯をまとめていく。
昨年夏:下の裏に小さな口内炎ができる。軟こう・ビタミン剤など処方される。
11月:治るどころかひどくなり、疼痛増大。レーザーで焼く。舌の側面にもしこり出現。医科では薬の副作用を疑う。
年明け:ひどくなる一方。しこり増大。痛みがひどく寝れないほど。
1月21日:大学病院受診。舌ガン判明。
なお、堀ちえみさんは、いくつもの大病の経験から、毎年精密検査を受けていて、腫瘍マーカー検査も実施していた。
あるべき診断
実際の状況を推測するとこうなる。
夏の口内炎と思っていたものは、ガンが大きくなって潰瘍化したもの。
すでにある程度の大きさになっていたはずである。
その後ガンは近隣組織に浸潤し、さらに大きくなってしこりとなった。
粘膜病変の治療は、通常2週間で転機がみられなければ、腫瘍の可能性が高く、高次の医療機関の専門医に紹介する のが普通である。
まずそれがおこなわれず、経過観察としてしまったところが最初の大失点。
次に診たかかりつけの医科の先生は、薬の副作用と判断した。
薬の副作用ならば、同一カ所に現れ続けるのはおかしい。
ただしこの医師は連続して診つづけていたわけではないので、仕方ないといえるだろう。
また、ガンはその浸潤性ゆえに、周辺組織に浸みだし、硬く硬結する。
もしも、夏の時点で舌を触診していれば、硬結が確認できたはずだ。
また、ステージ4ということで、所属リンパ節への転移があるということ。
ということは、少なくとも秋ごろには、リンパ節の触診をおこなっていれば、硬くふれて異状を感知できたはずである。
今回の問題は、担当歯科医師が腫瘍の可能性を全く考慮していなかったことによる。
腫瘍マーカーでの異状無しの所見は、このガンについては感がなかったからだと思われる。
口腔領域において、腫瘍マーカーがあてにならないことぐらいは、歯科医であれば知っておくべきであった。
当院であれば
疑わしいときは、触診などの各種検査は当然おこなう。
一般に舌がんの基本審査は、視診と触診。
当院では、粘膜病変が2週間変化が無ければ、大阪警察病院の口腔外科に紹介する。
何か引っかかることがあれば、2週間など待たない。
警察病院にも無理を通してもらい、迅速に処理をする。
先日、潰瘍状病変の患者では、当院受診から、警察病院で診察を受けるまでの時間は、土日を挿んでも5日であった。
幸い、悪性腫瘍ではなかったが。
このような診察姿勢から、過去には、極めて早期のガンを発見している。(詳しくはこちら)
悪性腫瘍疑いの潰瘍状病変。警察病院での診断までは5日。
総論
ガンなどは時間との勝負だ、例え空振りに終わっても、疑うべき所見があれば専門家の意見を仰ぐべきだ。
なのにいたずらに時間を浪費した挙句、意味のない療法を繰り返していたというのは、歯科医としてあるまじきこと。
誤診というより、診察になってすらいない。
残念ながら、歯科医は、このように全身疾患に関する知識が乏しいものが多々いる。
特に粘膜病変においては、診断に疑いがあれば、即、高次の医療機関を受診すべきである。