とある連休後、インプラントの不調を訴え70代の女性が来院された。
左下45のインプラントがインプラント周囲炎で不調をきたしている。
右下456もインプラント埋入があるが、こちらはまだ症状をきたしていない。
いずれも10年少し前に埋入したものとのこと。
当院は脱インプラントを掲げているが、インプラントの後始末屋ではない。
本来ならインプラントをうった歯科医院が面倒を見るべきであるが、トラブルについては当院は一切かかわらないという条件付きで、診療することとなった。
それほどにインプラントのトラブルと、それにまつわる法的トラブルや、国民生活センターなどへの懸案事項は多い。
インプラントは患者・歯医者両者による高度なメンテナンスが必要。
しかしながら、患者がすでに痴呆を発しており、インプラントの維持が困難になっているために、根本的な口腔環境の方針変更の必要がある。
インプラント周囲炎を起こしているインプラントは撤去。
右下のインプラントに関しては、上部構造を撤去し、インプラント体のみを粘膜下に完全埋没させることで(スリープという)、様子を見ていくこととした。
天然残存歯と義歯の組み合わせで補綴をおこなうことで、痴呆が進行した場合でも、周りの介助者で何とか口腔環境を維持できる。
いつものように警察病院の石濱先生に撤去の依頼をした。
その後、返ってきた資料をみて驚いた。
HBV陽性、つまりB型肝炎に罹患している。
当院ではスタンダードプリコーションに基づく感染対策を、全ての患者におこなっているので感染拡大の心配はない。
加えて、HBVのワクチン接種も済ませてある。
医療関係者が自らの感染予防をできる限りおこなうのは、当然のこと。
ところが今回のケースでは、本人を含む患者の家族全員がHBVの感染を知らなかったこと。
このように症状もなくHBVのキャリアであるような感染を、不顕性感染という。
症状がないため、無自覚に第三者に感染させてしまう可能性が高い。
そしてHBVは非常に感染力の強い疾患。
患者家族に来院していただき、家族のスクリーニング検査とB型肝炎の医療機関での治療の必要性をお話しした。
感染経路については話を避けた。
感染経路によっては、家族トラブルに発展する恐れがある場合もあるからだ。
続きます