歯周組織図説 その4

いまや多くの歯科医院でおこなわれているインプラント治療。
第二の永久歯、などとうたっている歯医者もいるが、実態はそんな都合の良いものではない。
インプラントには、組織学的にどうにもならない大きな欠点があるためだ。
この欠点ゆえに、私はインプラント治療をやらなくなった。
今回は、その欠点を図で詳細に説明していく。

インプラントの結合様式

インプラントはチタンでできており、歯槽骨と強固に癒着する。
それゆえ咬合力を自身の歯と同じように受け止めることができ、あたかも歯を取り返したような感覚が得られる。

天然歯はセメント質と結合組織との間に、コラーゲン繊維による強固な結合が形成されている。
ところが、インプラントは結合組織との間に、強固なバリアを築くことができない。

天然歯の結合組織性付着
結合組織性付着

インプラントと歯周組織の状態図
正常なインプラント

インプラントの上部では、上皮組織による上皮性付着による、比較的緩やかな吸着がおこっている。
その下の結合組織では、コラーゲン繊維がインプラントと結びつくことができない。
結合組織やコラーゲン繊維はあるにはあるのだが、インプラント周囲をぐるぐる締め上げているだけで、結合組織性付着を形成することができないのだ。
そのため、結合組織部分でも、上皮組織と同じヘミデスモソーム結合による緩い吸着しか得られない。
これが、インプラントがかかえるどうにもならない欠点。

インプラントの結合組織部分を赤線部で横断面をとる
インプラントと結合組織

コラーゲン繊維は、むなしく周囲を取り囲むだけ
インプラントとコラーゲン繊維

強固な結合性付着が存在しないということは、インプラントの歯周病菌に対する防御力が、歯と比べて極端に弱いことを意味する。
それゆえ、インプラントの維持にはインプラント全周に対する徹底的な清掃が継続的に不可欠。

もし、インプラントの清掃が不十分であればどうなるか。
防御が薄い分、天然歯よりはるかに速いスピードで、歯周組織は侵されていく。

上皮や結合組織における、付着の破壊と細菌の侵入
インプラント周囲炎

インプラント、歯槽骨に達した細菌によるインプラント周囲炎。
インプラント周囲炎末期

この段階ではすでにインプラント体自体も汚染を受けている。
接着面を増やして結合しやすい加工が施されているインプラント体は、汚染の除去は非常に困難。
炭酸カルシウムを吹き付けるβーTCP法という技法があるにはあるが、汚染をとりきることは実質不可能。
最終的には、除去が必要となる。(除去できる健康状態であれば、の話であるが・・・)

不都合な真実

インプラントの問題点は歯ぐきとの間に、強固な結合が得られないこと。
人工関節などは、体内に完全に埋め込まれているため、防御力の低さは問題にならず、所定の性能が得られる。
ところがインプラントは歯冠部を体外に出さなくてはならず、清掃が不十分となれば、そこを伝って細菌が侵入する。

若いうちは清掃は十分可能でも、高齢になればそうはいかない。
レジで小銭を出すことすら、もたつくことのある高齢の方が、高度なインプラントのケアが可能だろうか。
要介護になったり、痴呆がすすんでしまった高齢者の、毎食後のインプラントのケアは現実的ではない。

インプラント周囲炎がすすんで撤去が必要になっても、基礎疾患などがある年齢であれば、撤去そのものが不可能な事例も珍しくはない。
インプラントは埋入より撤去の方がはるかに侵襲の大きい手術が必要で、場合によっては命がけになる。
もし撤去が不可能となってしまえば、ひたすら抗生物質を与えられ、痛みに耐えるしかない。
そのような事例は、歯医者の手の届くことのなくなった介護の現場で山のようにおこっている。
歯医者からすれば、責任をとることなくインプラントの打ち逃げができるので万々歳といったところ。

インプラントはもろ刃の剣だ。
打った直後は快適な生活がおくれるが、状況が変わればたちどころに患者の健康を脅かす存在となる。
本稿がインプラントを検討されている方の、理解の助けになることを願う。