てんかんは患者数の多い病気だ、おおよそ100人に一人は程度の差はあれ、有病である。
WHOの定義では「てんかんは、種々の病因によって起こる慢性の脳障害で、大脳ニューロンの過剰な発射の結果起こる反復性発作を主徴とし、これに種々の臨床症状および検査所見を伴うもの」となっている。
神経の伝導は電気信号により成り立っている。
神経の集合体である大脳が、何らかの原因で電気的な乱れが発生し、暴走状態に入ったようなもの。
大脳ニューロンの過剰放電を原因とすることから、よく脳の電気的嵐に例えられる。

てんかんの原因の多くは、脳に障害や傷があることでおこり、全体の8割を占める。
多くは成人までに発症するが、脳梗塞などで脳に障害がおこった場合でも発生する。
このてんかんを症候性てんかんという。
それ以外の原因不明のてんかんを、突発性てんかんという。
誤解されがちだが、遺伝性のものはほとんどない。

発作は、いきなり脳全体が暴走するものと、部分的なものから始まり全体に波及するものとに分かれる。
大脳全体で発作が起きると、意識は消失したり、けいれんをおこしたりする。
部分的なものは、意識が保たれていたり、徐々に意識が消失したり、脳の暴走領域に関連した部位がけいれんしたりする。

治療は主に薬物療法。
完治する疾患ではなく、薬の服用は欠かせない。
しかし7割以上の患者は薬で発作が完全にコントロールされた状態にある。
日常生活には問題がない。
2割程度は難治性のてんかんで、薬でのコントロールが効かない。

発作の誘発は光刺激やストレス、飲酒などがある。
つまり、ただでさえ緊張気味でストレスの多い歯科治療は、てんかんの好発場所。
ただし、薬でコントロールされている場合には、治療は健常者と同様におこなえる。
とはいえ、一応歯科医師には発作の症状と、発作の誘発要因は伝えるべきであろう。
難治性のてんかんに対しては、大学病院などでの治療が無難。
というのも、歯科医師にはてんかん発作に対しての対処法を知らない場合が多いからである。

さて、歯科でてんかんが問題になるのは、抗てんかん薬剤の作用である。
部分てんかんの第一選択薬であるカルバマゼピン(テグレトールなど)は、マクロライド系抗菌薬と同じ代謝経路なので要注意。
カルバマゼピンの代謝が阻害され、めまいや運動失調など中毒症状を呈する場合がある。
薬で歯周病治療などとうたっている歯科医院で使うのがマクロライド(ジスロマックやクラリスなど)、注意が必要である。

フェニトイン(アレビアチン、ヒダントールなど)は歯肉増殖をおこす。
重度の歯肉肥大では、歯が歯肉の中に埋もれてしまうほど。
長期服用患者の約20パーセントにみられ、ひどい場合には歯肉切除を要する。
歯肉増殖の発生メカニズムは、いまだ完全には解明されていないが、歯垢(プラーク)の存在が増殖因子の一つと考えられており、口腔清掃が有効である。
それゆえ、増殖傾向がみられた場合、歯科医院での口腔清掃は絶対に必要。

厄介な疾患のてんかんではあるが、コントロールされている限り、現在では健常者同様の治療ができる。
ただし、それにはきちんと薬を服用すること。
車の事故でとかく自己判断による服用の停止が問題になったが、安全な歯科治療により自身の健康を守るうえでも、きちんと服薬していただきたい。
歯肉増殖などの副作用が出た場合でも、歯科医が一定の助けにはなるはずである。

てんかんと歯科治療 完