虫歯をおさえる医薬

ドックベストセメントというセメントがある。
虫歯の上から詰めると殺菌して、それ以上虫歯をすすめないようにするというセメント。
本来であれば神経を除去しなくてはならない歯の神経を、保存できるという画期的な医薬。
神経を除去した歯は代謝が失われ、もろく壊れやすく、平均寿命も大幅に下がるためうまく使えば、かなり利用価値は高い。
私はもともと神経の治療が専門だが、根管治療(神経の治療)はないに越したことがないと思っている。

ドックベストセメントは、アメリカで開発されたが、日本の薬事で認定ざれていないので、保険がきかない。
つまり、このセメントで修復した歯は、以後の治療は、すべて保険外となる(混合治療は禁止のため)。
今回は、このセメントの話。

ドックベストセメントとは

ドックベストセメントは銅イオンの殺菌作用を利用したセメント。
歯質接着能力はなく、咬合圧に耐える機械的強度も持ち合わせない。
そのため、目的とするう窩(虫歯の穴)のう蝕を最小限で覆うことが望ましく、後は接着性と機械的強度に優れ、かつ歯髄刺激性の少ないセメントで裏層することが求められる。

ドックベストが長期的に殺菌効果をあらわすためには、露髄しないぎりぎりまでう蝕を除去する必要がある。
通常の治療であれば、う蝕の6つのステージ、生活反応層・透明層・混濁層・先駆菌層・寡菌層・多菌層のうち、通常なら先駆菌層・寡菌層・多菌層は除去の必要がある。
それで露髄するなら、抜髄。

そこで、ドックベストセメントを使用することで、先駆菌層程度なら殺菌能力で何とか保存しようとするのが、この治療の本質。
う蝕検知液を用いて、除去できるところは徹底して除去し、どうにもならないところをこのセメントを用いる。

ドックベストセメント・日本では手に入らないので個人輸入する
ドックベストセメント

欠点

欠点としては、歯髄反応が術後に出てしまうとやはり神経を除去する必要があるということ。
その時は大丈夫でも、年数がたって根管治療が必要になったときには、根管内の修復象牙質のより歯髄腔(神経の入っている空間)が狭窄して、根管治療が難しくなっている場合があることである。

また、保険のきかない自由診療であるため、値段は医院によってばらばら。
数千円でやってくれるところもあれば、数万円のところもある。
ちなみに当院は高い、セメントの施術だけでも5万円かかる。
ざっと虫歯をとってセメントをつめるだけなら、数千円でも良いと思うが、きちんと検知液等を使い、きちんと適切な材料とテクニックを駆使するには、時間と技術が必要だからである。

不十分なエビデンス

それゆえ、私は親族と、ごくごく一部の信頼していただいてる付き合いの長い患者にしか使用していない。
というのも、良さそうなことはわかっていても、日本においては信頼できる予後のデータや、エビデンス(根拠)のある論文がないためである。
世界全土を見回しても、信頼できる推奨グレードのある論文や研究がいまだ乏しいのだ。
だから、何かあったときに理解のいただける範疇でしか使用しない。

私は治療に関してはものすごく保守的。
エビデンスの不十分なものは、基本的に採用しない。
魔法のセメントは、万能ではないのだ。

ところが、他院でこのセメントでトラブルをおこした患者が来院した。