ある梅雨の開けた7月、40代後半男性が当院を受診した。
糖尿病の既往あり。
現在は薬の服用等はなし。
右上大臼歯部相当部の顔面が腫脹している。
病院で歯科の領域なので、歯医者の受診を勧められたらしい。
歯肉に腫脹は多少みられるが、排膿等の目立った症状なし。
領域相当部のリンパ節に腫脹等の所見なし。
左上5番が歯牙破折のためコアごと脱離し、排膿を含む炎症所見が見られる。
左上5番の消炎のため、抗生剤の投与をおこなうので、併せて経過をみることとした。
3日間の抗生剤の投与期間を経て、患者が来院した。
顔面の腫脹は、来院した日の夜にはひいたという。
腫れが引くのは結構なことだが、いくらなんでも、早すぎる。
しかし症状が消失したため、何もしなかった。
2週間後、前歯部の充填治療で来院した。
今度は右下1~5番の顔面の領域が腫れている。
ところが歯牙や歯肉に発赤、発熱、腫脹はない。
リンパ節も正常。
炎症を示す所見が皆無なのだ。
これは、浮腫だ。
炎症は病原体の侵入や、打撲等の外傷や、やけどや化学物質の接触などの刺激で誘発される防御反応であり、治癒の機序の形態でもある。
炎症の5徴候は、発赤、発熱、疼痛、腫脹、機能障害である。
腫脹は、好塩基球や肥満細胞などが刺激を受けヒスタミンなどを放出するところからおこる。
ヒスタミンは、毛細血管の拡張と血管壁の透過性の亢進をおこない、当該部位にどんどん血液を送り込む。
これが炎症による腫脹のメカニズム。
治癒するためにおこっている機転が炎症なので、炎症というものはむやみに消炎するべきものではないの。
対して浮腫は、血液と細胞間質の間の浸透圧の平衡がくずれ、細胞間質に多くの水分が移動し、滞留することをいう。
何らかの原因で血管透過性が亢進し、細胞間質の腫脹をきたしたときにもおこる。
全身性など、いくつか分類があるが、今回は局所的に体液が溜まった状態。
炎症と違い浮腫は浸透圧や、血管透過性が正常になれば速やかに解消する。
炎症のように、防御や修復といった機序ではないため。
ではいったい何がおこったのだろうか。
続きます。