とある年の瀬、70代後半の女性が当院を受診した。
右上犬歯の痛みが取れないとのこと。
近医を受診していたが、らちが明かないのでこちらに来たとのこと。
右上345にはTEKが入っており、3は感染根管処置が継続中。
この3が電激痛をおこすという。
根尖病巣で電激痛は考えにくい。
前医ではデキサルチンを処方され、塗ると効果があったという。
歯周病も痛みの原因だろうとのことで、長期にわたり抗生剤も処方されていた。
デキサルチンは口内炎の薬で、塗布するとふやけて幹部を覆う。
しかし口内炎やびらんなどの粘膜病変はみられない。
よくよく話を聞くと、痛みは突発的に発生し、数秒間持続する。
思い当たるところがあり、右目の少し下部の眼窩下孔あたりをおさえてみる。
圧痛あり、三叉神経痛の疑いありだ。
三叉神経は広く顎顔面・頭部の運動や感覚を支配する神経。
脳幹からでた神経は側頭骨錐体部で三叉神経節を経て三枝に分かれ、その第二枝第三枝がそれぞれ上顎下顎に入る。
歯科領域のみならず、目や聴覚にも関わり、その働きは非常に多い。
そして歯や歯周組織の痛みは三叉神経を介して認識される。
眼窩下孔はこの三叉神経の第二枝のでてくるところ。
そこの圧痛は三叉神経痛でよくみられる所見のひとつ。
眼窩下孔
三叉神経痛は、非常に鋭い痛みを特徴とし、その痛みから自殺病ともいわれる。
耐えがたい痛みのため、自殺してしまうこともあるためだ。
女性にやや多く、左右いずれかの片側におこる。
腫瘍などでおこる症候性と、三叉神経痛の多くをしめる突発性がある。
突発性三叉神経痛は、脳血管が動脈硬化などで神経を圧迫することなどでおこる。
北大病院(医科)の症例で、神経にぐるぐる巻きに血管が巻きついている手術中の写真をみたことがある。
重度のものの治療は北大病院の場合、脳外科で耳の後ろの頭蓋骨に小孔をあけ、血管の走行を変える手術で治していた。
しかしこの程度の症状であれば、投薬治療が第一選択。
抗てんかん薬のカルママゼピン、商品名テグレトール。
神経の閾値を下げることで、疼痛を緩和する。
ただしこの薬、服用すると最初は慣れるまでけっこうつらい。
吐き気やめまいなど頻発する。
よって、専門家のもとでの治療が望ましい。
そこで、病院の神経科の専門医に紹介状をだす。
三叉神経痛の疑いあり。
2週間後、返事を携えて患者が来院された。
診断の結果は、三叉神経痛、ビンゴだ。
テグレトールを処方されていた。
しかし、デキサルチンで症状が緩和されていたのはどういうことか。
続きます