くっついてしまった歯
生物学的な発生は不思議だ。
設計図である遺伝子にコードされた情報が、酵素を介して細胞を分化させ、器官などを作り上げていく。
ところが時として、エラーをおこすことがある。
発生段階での大きなエラーは、個体の死という形で淘汰される。
中程度の物であれば、奇形という形で生まれてくることもある。
小さなエラー程度の物は、医学の現場では無数に転がっている。
歯の合体
時として発生過程において、隣り合った歯がくっついてしまう場合がある。
くっつき方もパターンがあり、歯の歯質のみがくっついてしまっている癒着歯と、歯髄(神経)や象牙質までくっついてしまっている癒合歯に分けられる。
このようなくっついてしまう歯は、乳歯に多くみられ、発生頻度は3%ほど。
永久歯にもなくはないが、その頻度は0.3%程度とかなり低くなる。
原因
胎児期における、母体の病気・薬物の副作用・母体の栄養不良などが考えられている。
他にも、正常な状態から自然発生的にくっついたものや、遺伝的要因を示唆するような報告もある。
いずれにせよ、歯の原基である歯胚(芽のようなもの)という段階で歯が接合することでおこる。
注意すべきこと
癒合歯・癒着歯には、歯の生え変わりにおいて普通の歯と異なり、注意が必要である。
う蝕になりやすい
癒合歯・癒着歯は、二つの歯が合体したもの。
それゆえ、板チョコの割れ目のように、癒着部分に溝がある場合が多い。
ここは、う蝕(虫歯)の好発点。
当然、歯ぐきの中でもこの割れ目が存在するため、歯肉炎などにも罹患しやすい。
清掃のフォローが欠かせない。
交換期
永久歯が生えてくると、歯根は吸収され、歯がぐらぐらしてくる。
やがて乳歯は抜けて、永久歯がのびてくる条件がそろうのであるが、癒合歯などではこれがうまくいかない。
まず抜けるべき乳歯が歯根吸収を受けても、くっついている隣の乳歯にはまだ歯根吸収がすすんでいないためである。
それゆえ、永久歯が出てきたくても、残った乳歯が邪魔をして、うまく出てこれない。
出てこれるところに永久歯がずれていき、歯並びが狂うことがある。
それを防ぐために、癒合・癒着を把握しておき、必要な時期が来たら速やかに抜歯の要がある。
日頃からの検診が欠かせない。
代生歯
乳歯に代わって生えてくる永久歯を、代生歯という。
癒合・癒着している歯の代生歯は、欠如している場合が非常に多い。
およそ半数ほどにもおよぶ。
そのため、あごの成長如何によっては、すきっ歯になる場合がある。
総論
癒合歯・癒着歯は通常の歯牙に比べ、経過をきちんと見ていく必要がある。
特に、小学校に上がる学童期に差し掛かる時期においては、注意が必要。
常日頃から、かかりつけの歯科医でチェックを受けておくことが良いだろう。
交換期における癒合歯。右のみ永久歯が萌出したが、左は癒合歯に邪魔され萌出していない
癒合歯・癒着歯 完