ブリッジの大規模な脱落からの補綴

年末の悲劇

70代女性、ブリッジの脱落を主訴に来院。
上顎右4番から反対の左5番までの、ロングスパンの9本ブリッジと、右上5番の単冠が脱落している。
つまり、前歯を含めた歯列が、大臼歯部を除いてすべて脱落したのだ。
ところが、年の瀬も年の瀬、明日で大掃除して今年は終わり、という最悪の時期。
技工所は年内の受け付けは終了しているし、何か行うにしても、時間もなさすぎる。
とりあえず、外れたブリッジで間をつなぐしかない。
ユニセムで再着する。

初診時のパノラマ写真・抜粋
初診時のパノラマ写真

治療前期

上顎の抜歯

年が明けたところで、治療を開始する。
まずは、左右の大臼歯部にのみクラスプ(義歯の維持のためのバネ)をかけた義歯を作成する。
完成したところで、保存不能な左上45を抜歯。
右上の4番はやはり保存不能のため抜歯、5番は問題がなかったため、セラミック修復をおこなう。
義歯上に人工歯を配列していなかった右上4には、義歯増歯をおこなう。

これでとりあえずは上顎に歯が並んだことになる。
上顎の抜歯窩の治癒を待つため、いったん下顎の治療に入る

下顎の補綴

下顎はもともとの義歯があるため、義歯に合わせて仮歯を作成。
治療中でも義歯が使えるようにするためだ。
右3番、左45番をセラミックで修復するも、これらはまだセットしない。
来院時のみこちらに置き換えて、とりあえずの保険の入れ歯の作成をすすめる。
義歯完成後、セラミックと新製義歯を同時にセットした。
全てを同時にセットすることで、義歯の無い期間をゼロにすることができた。
この時点ですでに6月になっており、約半年が経過したこととなる。

治療後期

ここからは、最終的な完成を目指しての治療となる。
これまではいわば仮設の治療。
審美性・機能性を向上させた本治療の段階となる。

上顎大臼歯部の補綴

左右の大臼歯部は劣化がひどく、長期の使用に耐えられないと判断し、やり替えへ。
先に作成した義歯のクラスプを、ワイヤークラスプに置き換え新しいクラウンにかけれるようにする。
これでようやく、歯牙の補綴は終了した。

AIの作成

ここからは、見た目の改善と咬合力をフルに発揮させるため、AIデンチャーの作成に入る。
抜歯から3か月以上たち、抜歯窩もきれいに治っている。

個人トレーで、シリコン印象材による精密印象をおこなう。
シリコン印象材は、保険のアルジネート印象材と異なり、変形なく極めて精密に印象がとれる。
ただし、非常に高価。
しかし、超高精度のAIデンチャー作成には欠かせない。

その後咬合採得(かみ合わせの高さの設定)、試適を経てついにAIデンチャーのセットに至った。
セットしてからの調整も大変だった。
下顎歯槽骨の極度の吸収のため、オトガイ孔(三叉神経の出口)は歯槽骨上面に開口しており、デンチャーの使用時に電激痛が出た。
開口部の被圧を調整するなど、結局落ち着いたのは、年末になってからである。
ほぼ1年を治療に要したことになる。

上顎のAIデンチャー
上顎AIデンチャー

AIデンチャーと保険の仮義歯比較。保持力に格段の差がある
保険義歯との比較

下顎のAIデンチャー。クリアのクラスプを使用
下顎のAIデンチャー

保険義歯の装着。クラスプが目立つ
保険義歯側面観

AIデンチャーの同一角度からの装着観
AIデンチャー側面観

保険義歯の正面観
保険義歯正面観

AIデンチャーの正面観
AIデンチャーの正面観

予後

理想的な材料、技法を用いて治療したため、4年経過でも予後は良好。
保険の義歯と違い、骨吸収が著しい症例であったが、食べたいものを不自由なく召し上がられている。
今年になって右上6番の近心頬側根に破折が見つかるも、問題のある根の部分切除(ルートリセクション)をおこない、クラウンの保存ができたため、新たな補綴は必要なかった。
現在も問題なく食事を楽しまれている。