先日、二人の児童が立て続けに口唇裂傷で来院した。
パノラマ、顎位共に異状はみられず、裂傷に対する消毒と投薬のみで終了した。
ところが一人が、1日後、右耳の前が痛いと再来院した。

これは、転倒して下顎を強打した際、下顎頭が下顎窩を突き上げてしまったため。
前日にパノラマ上では骨折を疑う所見がなく、開口障害ならびに顎位のずれも認められてなかったので、その旨を説明して、1週間後に経過観察とした。

骨折といえば、衝撃を受けた部位が骨折するイメージがある。
これを、直接骨折という。
ところが、衝撃を受けた部位から離れた場所に、力が骨などを通して間接的に加わり、骨折する場合がある。
これを介達骨折といい、顎顔面領域で比較的よくみられる骨折である。
下顎正中に力が加わると、下顎骨の上端に位置する下顎頭が介達骨折する。
症状として、耳の前にある関節窩の痛み、顎が普通に閉じない・噛めない、左右どちらかに下顎が偏位するなどがある。

介達骨折・力は後方に伝わる 介達骨折・正面

後方に伝えられた力は、弱い下顎頭で骨折をおこす

下顎頭の骨折

下顎骨折の原因の多くは交通事故。
命にかかわる部位でないため、脳その他の治療が優先され、気が付くと顎がずれたままくっついてしまい、顔貌が変形してしまうこともある。
10日以内程度であれば、問題なく整復が可能とされる。

治療は厄介で、大変苦しい。
骨折した部分は、手術でプレートなどで止める観血的な処置と、手術せずにワイヤなどで固定する非観血処置とがある。
顎はたくさんの筋肉が複雑に結びついており、それぞれが下顎骨を中心に共調して顎運動する。
そのため、単に顎を整復しただけでは、骨折片は結びついている筋肉に引かれ、位置を変えてしまう。
そうならないように固定するのだが、非観血的処置の場合は、顎にはギブスが使えない。
そこで、上下額の歯牙どうしをワイヤにて閉口状態で固定する。
骨がくっつくまでの数週間外さないため、食事は流動食のみと、大変な思いをすることになる。

顎などを強打して、耳の前方に異常を感じたら、医療機関、できればCT撮影を受けれるところに速やかにかかることが望ましい。
下顎は、基本的に口腔外科の守備範囲。
かみ合わせという面からの整復をおこなってくれるので、総合病院で口腔外科があるところがベストだろう。

ちなみに当院では、CT撮影の必要があれば、向かいの加藤耳鼻科に撮影を依頼している。
こちらのユニット全てで加藤耳鼻科のCT展開プログラムがみれるようにしてあり、正確な診断が可能。
耳鼻科と連携できるので、歯科をまたいだ全身的な症例にも対応できる。

下顎の骨折 完