60代後半女性。
長年軟性裏装義歯を使用したため、顎堤の極度の吸収のある患者。
おまけに骨隆起まであり、骨隆除去を含む補綴でずいぶんと苦労した。
今回はこの患者におこった味覚障害と、医師・歯科医師の処方で散々な目にあった話。

7月の海の日、患者は右上6にP急発で抗生剤を服用する。
当院は祝日で休院中だったので、当院にかかる前の2年前に近くの歯科医院で処方されたものを。
しかし、処方されていたのはあろうことかジスロマック。
10日ほどのちに、上下義歯内面に灼熱感を感じ、来院。
口腔内に白いカスのようなものを認める、口腔カンジダ症だ。
抗生物質のくだりで詳しく書いたが、ジスロマックは抗菌スペクトルが広い。
そのため口腔常在菌を一掃してしまい、抗生物質に感受性を持たないカビの一種であるカンジダが大繁殖したわけである。
歯科で誤用される処方にまともにあたってしまったわけだ。
とりあえず、抗真菌薬であるフロリードゲルを処方した。

ところが1週間たっても、2週間たっても寛解しない。
フロリードゲルの連用は原則2週間をこえてはならない。
市販のリフレケアH(現在は終売)での治療に切り替える。
リフレケアはカンジダの増殖を抑えるとされているヒノキチオールが配合されている。
結局4週かけて、寛解を得た。
一度乱れた細菌叢を正常に戻すのは大変である。

やっと寛解を得たと思ったのもつかの間、今度は味覚が変調をきたす。
甘みがわからず、水を飲んでも塩辛く感じる。
ドライアイを併発しており、口腔乾燥症を疑う。
目も唾液腺も同じく分泌気管、同時に症状が出るのは珍しくはない。
今回の来院前、ご家族に大病が見つかったとのことで、心因性を疑う。
補水を指示し、同時にプラチナノテクトでうがいをするようにする。

プラチナノテクトは、私の所属していた北大歯学部第一保存科が北大工学部とコラボして開発された妙薬。
白金ナノコロイドが配合されている。
妙薬と書いたのは、目的とした洗口剤としていた作用のみならず、白板症などの前癌病変にまで効果をあらわすため。
私の使用感では、舌痛などの原因があまりはっきりしない疾患に劇的な効果をみせることがある。
まあ、今回のケースでは、基材となるグリセリンによる保湿効果に期待したことが大きいが。

3日後、経過観察のため来院。
なんと舌が黒色に変化していた。

続きます