先日、おめでたで当院を退職したスタッフが制服返却にやってきた。
現在妊娠8カ月。
おなかもずいぶん大きくなってきた。
元気な赤ちゃんが生まれることを祈るばかりである。

さて、今回は出産について。
以前、妊娠中について書いたが、実は出産にも歯周病がかかわってくることがわかってきた。
歯周病が、早産と低体重児出産に関連しているという研究が、今世紀に入りすすんでいる。
しかしながら、それを否定するようなデータもあり、今後の研究が待たれる。
研究については、国内では鹿児島大学歯学部がぬきんでており、細胞シグナリングを根拠に納得できる内容となっている。
今回は、研究のなかで明らかになりつつあるものも含めて説明していく。

歯周病と早産・低体重児出産の関連がアメリカで初めて報告されたのは、1996年と比較的最近のこと。
それによると、歯周病遊病患者の早産・低体重児出産リスクは、健常者の7.5倍にも及ぶことが報告されている。
それを否定するデータも出されたものの、2003年に鹿児島大学で行われた調査では、やはりリスクは5倍にも達することが判明した。
これは、タバコやアルコールをはるかに凌駕する数値である。

歯周病による低体重児出産には、歯周病菌の膣内感染が直接関与しているものがある。
鹿児島大のデータによると、ハイリスク群の半数以上の妊婦の卵膜に、嫌気性グラム陰性菌の歯周病菌であるP.gingivalis、F.nucleatumのいずれかが検出された。
健常者ではいずれも口腔内ではみられるものの、膣内では未検出。
妊娠性の歯肉炎の原因菌、エストロゲンに反応性をもつP.intermediaは口腔内で増加するものの、膣内では未検出。
口腔内からの妊娠後感染を疑うのであれば、出産直前まで増加を続けるエストロゲンに反応し、爆発的に増加するP.intermediaが検出の主体となっているはず。
これは妊娠後、膣内感染があったのではなく、もとから感染があったと考えるのが妥当であろう。

次に、口腔内の歯周病が遠位の子宮に作用し、早産・低体重児出産に関与するケース。
これは、妊娠中の歯周組織の歯肉炎も含まれる。
口腔領域で歯周病菌の内毒素であるリポ多糖が、免疫細胞の受容体であるTLR4に結合すると、炎症を促すサイトカインTNF-αが放出される。
他にもインターロイキン1β、8など。
これらのサイトカインは血流にのって運ばれ、子宮収縮作用のあるプロスタグランジン(PG)の分泌を促してしまう。
その結果として、出産適期を前にして分娩が始まり、早産に至る。
直接子宮への感染がなくても、歯周病による炎症反応が影響を及ぼしてしまうのだ。

これらのことより導き出される結論は、妊娠期における歯周病の加療は、早産・低体重児出産のリスク低減のため有効。
さらに直接感染リスクを考慮すると、若いうちからの定期清掃は効果的である。
特に、高齢出産が多くなってきた昨今、女性の歯周病に対する予防意識は今後強化されるべきであると考える。

歯周病と出産 完