梅毒とは
保健所からの電話
先日、保健所から電話があった。
当院で治療していた患者が、梅毒に感染していたとのこと。
梅毒は全数報告対象である、五類感染症。
それゆえ、感染を報告された保健所が、健康保険の履歴を追い、こちらに連絡してきたらしい。
私の医院では、すべての治療器具に患者毎に滅菌を施しているので、特にあわてもしない。
すべての患者が感染症に罹患していると想定した、スタンダードプリコーション(詳しくはこちら)に基づいて感染予防をおこなっているからだ。
そもそも、梅毒の原因である梅毒トレポネーマは非常に弱く、体外であっという間に死んでしまうため、体外の物を介しての感染はない。
せっかくなので、今回はこの感染症について取り上げていく。
病原体
病原菌の梅毒トレポネーマは、らせん状のグラム陰性菌で、スピロヘータ門に属する。
細菌学をかじった人であれば、実に面白い細菌の一種。
普通の明視野顕微鏡観察では見えず、暗視野顕微鏡で観察される。
酸素のあるところでは生存できず、かといっても酸素が全くなくても生存できない微好気性細菌という気難しいしろもの。
試験管内で(in vitro)は培養できず、唯一ウサギの睾丸内で培養できる。(in vivo)
つまり、培養は非常に困難。
培養の困難さゆえに、病原性の機序は解明されていない。
野口英世と梅毒トレポネーマ
野口英世は千円札の人物。
梅毒トレポネーマの純粋培養に成功したとされてきたが、現代では否定されている。
彼が成功したのは、培養な困難な梅毒トレポネーマではなく、非病原性の別のトレポネーマ。
とはいえ、脳梅毒が梅毒の進行形態であると証明した功績がある。
彼の功績を知る人は少ない
日本に入ってきたのは
鉄砲などとともに戦国時代に日本に入ってきたとされている。
関ヶ原の戦いで有名な大谷吉継や、加藤清正が梅毒に罹患していたという説がある。
感染経路
低酸素状態でしか生きられない微好気性細菌ゆえ、感染経路は限定される。
主な感染経路は性行為。
粘膜接触により、排出菌が傷などから侵入することからおこる。
以前は輸血などからの感染もあったが、今はない。
歯科で問題となるのは、母子感染。
梅毒トレポネーマは、胎盤通過能をもち、胎児に感染する。
感染した子供の発症年齢が学童期のものを、晩期先天梅毒といい、歯の奇形がおこる。
続きます