運動障害

歯科を受診される方には、実は口腔領域とは全く関係ない疾患が原因になっている場合がある。
そして、何気ない症状が、実は重篤な疾患の一症状であることすらあるのだ。
このように、歯科とは関係ない症状を、非歯原性疾患という。

このような全身疾患に対する備えとして、一応普通の歯学部では、関連があるところを勉強する。
しかし、私の出身の北大はそんなものでは終わらなかった。
6年生になると、通常の歯学部の授業ではなく、医学部の教授が来て医学の講義がおこなわれる。
医学をここまで勉強させられるのは、北大のみ。

私が学生時代の北大歯学部の学び舎。ここで死ぬほど勉強させられた
北大歯学部

精神科や産婦人科など医学全般にわたり、全く俺らが覚えても意味ないだろうと毒づいたものだ。
この時間を国試対策にあててほしいと思ったものである。
ちなみに、北大は他の歯科大のように国家試験対策を一切やってくれない。
それでも長きにわたって国試合格率日本一を守り続けた時代があるのだから、文句は言えない。

しかし、その後、この医学の知識が役に立ちまくるとは思ってみなかった。
ただし、歯科の私が診断したところで、一文にもならない。
そのため、普通の歯科医は勉強しないのが普通。
そもそも国試にここまで出題されないのだから、国試合格率が低い歯科大ではやってる暇など全くない。

さて今回は、非歯原性かつ、医科でもなかなか診断がつかなかった疾患について。

最初の兆候

60代前半男性。
今だ現役バリバリのの土木専門職。
切符の良い職人である。
あと20年やそこらは働けそうな印象があった。

最初は重度の歯周病で、入れ歯にする必要があり来院された。
多くの歯が抜歯のやむなくとなり、即時義歯による治療となった。
その後は重度の歯周病に対するケアとして、3か月に一度の定期清掃とした。

わずかな異変

異変が起きていたのは、初診から7か月たった定期清掃のときである。
何かろれつが回らないという。
他には症状がないという。
滑舌が悪いのではなく、何か絡みつくような感じがしないでもない。
お題を唱えてもらったら、単語が出てくるので失語症ではない。

このような場合、まず疑わなくてはならないのは、脳梗塞である。
実は、高齢者では、知らず知らずのうちに小さな脳梗塞ができていることはままある。
場所によっては全く症状がない場合もある。
このような微小な脳梗塞が構音機能に影響を与える場合を、私は何度か遭遇している。(防げなかった脳梗塞

対応

他にも、ろれつが回らなくなるような疾患はある。
しかし、まず脳梗塞を疑うのは、すでに血管に血栓などが詰まるような状態が体内におきていた場合、いつ何時重大な梗塞が脳や心臓でおこるか分かったものではないから。
可能性の高いものより、生命維持などにかかわる疾患から、順につぶしていくことがセオリー。

医療においては、時として正確な診断よりも、迅速な対応が尊ばれることが良くある。
正確な診断を待って機を失するよりは、最善手でなくても重大な事態を引き起こさないようにする方が良い。
近くの大きな病院の脳外科に紹介状を書いた。

続きます。