生えてこない永久歯

学童期になれば、乳歯の下から永久歯が生えてくる。
永久歯が生えてくると、乳歯は歯根が吸収され、自然にぐらぐらになって脱落する。
ところが、生えてくるべき永久歯がない場合がある。
これを先天性欠損といい、特に稀な症例ではない。
約10人に1人が、先天的に欠損している。
今回は、先天性欠損が判明した場合の注意点などを挙げていく。

先天性欠損の好発部位

特に多いのが、下顎の第二小臼歯。
前から5番目の歯である。
次いで多いのが、下顎の第二切歯。
前から2番目の歯。

下顎の先天性欠損のパノラマ写真抜粋。赤丸部にあるはずの永久歯がみられない。
先天性欠損パノラマ写真

乳歯の寿命

乳歯は永久歯に比べると、歯根が細く短く、石灰化度も低く弱い。
そのような乳歯は、いくら頑張ってお手入れしても、一生もつということはない。
だいたい20歳から40歳の間に、歯の根が吸収されてぐらぐらになるか、骨に癒着して歯冠部のみ脱落して、喪失の憂き目にあう。

喪失後の問題

代生歯(代わりに生えてくる永久歯)のない乳歯が失われると、様々な問題が出てくる。
それは、学童期か、それ以降かで問題が異なる。

学童期の喪失

永久歯列が完成する前に喪失してしまうと、問題は大きい。
抜けた隙間に、前後の永久歯が倒れこんできたり、かみ合う相手の歯がのびてきてしまうのだ。
こうなると歯列はガタガタになり、矯正を必要とするケースも珍しくない。

余談であるが、私の学生時代の実習の相手のA君は、まさにそのケース。
実習が非常に難しくなって、苦労した記憶がある。

抜けたところへの倒れこみを防ぐために、永久歯列が完成するまで、必要に応じて矯正装置をつけることもある。
顎自体も成長期であるため、つないで直して成長を妨げることがあってはならないため、治療法が制限される。

永久歯列完成後の喪失

成長期中であれば、小さな一歯のみの入れ歯で、隣在歯の移動を防ぐ。

成長期が終わっていれば、補綴による治療が一般的。
入れ歯や前後の歯をつなぐブリッジなどが保険適応。
喪失年齢が若ければ、インプラントが最も良い選択肢になる。
ただし、保険適用外となり高額となる。

総論

永久歯の先天性欠損は、乳歯を喪失すると深刻な歯列不正を招き得る。
そのため、代生歯の無い乳歯を可能な限り延命させることが重要。

そこで重要になるのが、学童期手前でのレントゲン撮影。
上下の全顎をおさめるパノラマレントゲン写真では、永久歯の歯胚(歯のタネみたいなもの)の存在を確認することができる。
パノラマを診ることで、絶対に守らなくてはならない乳歯の存在がわかる。
それを把握することで、代生歯の無い乳歯を、歯が生え変わることを前提としない治療に切り替える。
少なくとも、成長期が終了するまで守り抜くことが大切。

幼稚園に上がって、レントゲン写真を撮れるようになったら、ぜひパノラマレントゲン写真を撮ってもらってあげてほしい。
子供の将来への何よりのプレゼントになるはずだ。