ガン治療における歯科での留意点

先日、がん治療をおこなうため、歯科治療を終わらせておいてほしいという患者が来院した。
このような依頼は、ちょくちょくある。
癌の治療中は、様々な抗がん薬、放射線照射の影響で、極端に口腔状態が悪化するためだ。
それによる障害を防ぐため、やらなくてはならないことを終わらせておく方が賢明。
今回は、ガン治療の口腔に及ぼす悪影響と、その対策について解説する。

ビスフォスフォネート系製剤

今までこのブログでたびたび扱ってきたビスフォスフォネート製剤(BP)。
通常は骨粗鬆症の薬として使用される。

人間の体は常に壊され、再生産されて生まれ変わっている。
その代謝をおこなうのが、骨を壊す破骨細胞と、骨をつくる骨芽細胞。
これらの細胞の働きのバランスが崩れると、骨粗鬆症になる。

この破骨細胞の働きを抑制するのが BP。
顎は常に強大な力が加わるため、BPが他組織にくらべ格段に集積しやすい。

ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死

BP系の薬剤の副作用として、生体が骨を速やかに吸収する必要がある場面で、骨吸収が阻害されてしまう。
その場面とは、抜歯や外科処置後におこる治癒機転。
組織が骨への細菌感染を防ぐためにおこなう、骨破壊が十分におこなえなくなる。
結果、骨組織が感染に追いつかれてしまい、感染をおこした部分の骨は生活反応が無くなり枯れてしまう(腐骨形成)。
腐骨ができると、排膿や疼痛などが続き、かなりの苦痛を伴う。

現在では2年前にようやく治療のためのガイドラインが作成された。
それまでは、歯科医にとっては鬼門ともいえる薬剤だった。
日本では今世紀に入って爆発的に広がった薬剤。
最初の方の世代の製品は、副作用がおこる可能性が高かったが、世代がすすむにつれ改良され、現在では1%を切っている。

がん患者へのビスフォスフォネート製剤の投与

骨粗鬆症の治療薬としてだけではなく、骨へのガンの転移を防ぐためにもBPは有効である。
破骨細胞による骨吸収の結果、骨は疎になり、ここはやがて骨芽細胞により充実した骨組織に再生される。
ところが再生までに、血流などで流れてきたガン細胞が漂着すると、ここで増殖がおこり、骨へのガンの転移が成立する。
これを防ぐために、一時的に破骨細胞の働きを止めてやろう、というのがBP投与の根拠。

BP製剤への対応

BP製剤による顎骨壊死は、通常は壊死部分を削除することで治癒する。
しかし、ガン治療中の間は、それが難しい。
それゆえ、BP投与で問題があれば、治療するといったガイドライン通りの治療は避けるべきである。

よって、がん患者は、ガイドライン作成以前の、観血的治療は投与前に完全に終わらせてから、という流れに準ずる。
抜歯だけでなく、歯周病が悪化することも考慮しての抜歯基準の拡大も視野に入れるべきである。

ビスフォスフォネート製剤投与前に外科処置は終わらせる
手術

続きます