歯磨きの正しいタイミングは

報道されたフェイクニュース

先日から何人かの患者に、食後すぐの歯磨きは良くないとテレビで放送していましたけど、という話があった。
またもアサヒか、と思ったら、TBS。
まあここも大概であるが。
何がダメなのか、みていこう。

報道内容

食べた直後に歯を磨くと、酸性になって柔らかくなった歯質を傷つける、だから唾液の中の自己修復成分で治してから、歯を磨こうという趣旨。
いったいこんなことを監修した歯医者は何者だ、と思ったら、東京歯科大卒。
国立にして歯科最高峰の東京医科歯科ではない、私立東京歯科大。
ほかにも胡散臭い肩書たくさん。
多くは語らない。

虫歯のメカニズム

脱灰と再石灰化

虫歯はいきなりおきたりはしない。
砂糖などの細菌が利用できる糖分をとることで、細菌により酸が産生される。
これにより、歯のハイドロキシアパタイトと呼ばれる石灰分が、目に見えないレベルで溶解する。

しかし、唾液には修復成分がある。
唾液にもハイドロキシアパタイトが大量に含まれており、目に見えないレベルの物であれば修復してくれる。
だから、覚せい剤の服用などで、服薬時の唾液の少ない人はひどい虫歯になっていることが多い。

この破壊と再生のバランスが崩れた状態が続くと、歯は修復不能なまで実質欠損をおこし、虫歯と呼ばれる状態になる。

歯垢の存在

いくら口の中が一時的に酸性になっても、一瞬で唾液などで洗い流されて影響はほとんどない。
レモンなどは結構な酸性だ。(レモンやコーラは胃酸なみのPH2)
虫歯ができるには、もう一つ大事な要素がある。
歯垢だ。

歯垢はバイオフィルムといって、細菌がつくりだす、水に溶けない菌体外多糖。
細菌が自ら作り出す住みかといってよい。
ここには、バイオフィルムを作り出す細菌や、酸を作りだす細菌など、様々な細菌が住んでいる。
歯磨きしなければ、とれない。

ここに砂糖などが存在すると、すでに細菌は十分に存在するので、一気に酸の生産が始まる。
それによる口腔内のPH(酸性度:酸性1<中性7<アルカリ性14)の経時変化は次のようなグラフとなる。

口腔内の酸性度経時変化
ステファンカーブ

砂糖などが口腔内に入り、酸性度のピークは15分後くらい。
その後は徐々に唾液により中和される。

歯磨きの目的

歯磨きの目的は、この酸の生産工場になる歯垢の除去に他ならない。
他にも、細菌のえさとなりうる食渣の除去。

食後の歯磨きとは、歯垢から生み出される酸がピークになる前に、歯垢を細菌ごと取り去ってしまうのだ。
工場足る歯垢がなければ、酸の生産はさして多くはない。
いちいち細菌が酸をつくるのを待つ必要など、皆無だ。

実験の問題点

実験では、象牙質片を酸性飲料に浸漬していた模様。
そもそも、象牙質は硬く強固なエナメル質に守られている、歯の内部。
口腔内の歯の状況の再現ではない。

というか、それは嘔吐癖のある拒食症の人などがなる、胃酸による酸蝕症の進行段階(エナメル質が突破されたステージ)のモデル実験。
虫歯の実験では、ない。
虫歯の実験では、エナメル質と歯垢の存在が必要となる。
それではテレビ映えしないのは確かだが。

自己修復のおこった後の歯磨きが正しいなら、歯は歯磨きの習慣のない人ほどすくないはず。
そこまで自己修復能は強くはないし、歯垢に覆われてたら、歯石になるのが関の山。

結論

食後にすぐする歯磨きには、大いなるエビデンス(根拠)がある。
酸を作り出されては、後の祭り。
そうなる前にさっさと磨くこと。

さっそく日本小児科学会が否定のポジションペーパーを発表しております。(詳しくはこちら
私のブログでも、詳しい虫歯のメカニズムを解説しています。(詳しくはこちら

こぞってテレビや週刊誌が取り上げてますが、報道する以上、否定されたら修正記事くらい出してほしいものです。
くれぐれも、間違った情報に踊らされぬよう。
歯医者が喜ぶだけですよ。

食後すぐの歯磨きはダメ、のウソ