仮封材いろいろ
仮封材とは、仮の詰め物。
一時的な封鎖を目的とした材料の総称である。
あくまで一時的な封鎖が目的であるため、耐久性はそこまで高くはない。
日常生活の中で少しずつ欠けていく。
また、仮封という撤去を前提とした材料であるため、接着力はそこまで高くない。
今回は、この仮封材を材料別にみていく。
窩洞用仮封材
生きている歯の虫歯などを除去したあとは、部分金属修復物による修復をおこなう。
金属をはめ込むための窩洞を形成し、印象した後は、外来からの刺激を遮断する必要がある。
これがないと、冷水などがしみて日常生活が困難である。
このような場合の仮封材は主に樹脂系が用いられる。
当院ではデュラシールを用いている。
粉と液を混ぜることで餅状になり、これを専用の筆で窩洞に詰める。
2分ほどで、やや弾性をもった状態に硬化する。
撤去は探針などで突き刺せばとれる。
デュラシール
余談
高校生の頃、私は不摂生のため虫歯をつくり、インレーを入れるはめになった。
粘着性のものを食べるな、とれるぞと言われていたにも関わらず、豆大福を食べてしまった。
仮封材はとれ、豆と間違い飲み込んでしまった。
大変怒られた記憶がある。
根管治療用仮封材
根管治療の際の根管孔を封鎖する材料。
無菌の根管をつくるため高い封鎖性が求められる。
根管孔につめられた水硬セメント
ストッピング
天然ゴム系の仮封材。
専用の器具(ストッピングキャリア)で加熱し、根管孔に詰める。
接着性のない、およそ最悪の仮封材。
細菌レベルでみれば、ないも同然といって良い。
安くて詰めるのも撤去も簡単なことぐらいが利点。
そのため、保険治療を中心とした多くの歯科医院でみられる。
これを使っている歯科医院は、要注意。
保険の貼薬(消毒)点数を考えれば(大赤字のため)、致し方なしともいえる。
ストッピングの上に、他の仮封材を詰める分には問題ない(二重仮封)。
加熱・充填のできるストッピングキャリア
ストッピングの加熱
水硬セメント
餅状のセメント系仮封材。
根管孔に詰めると、吸水し化学反応で硬化膨張する。
膨張により緊密な封鎖がおこなえる。
すぐに使える状態で製品化されているため、スムーズな治療が可能。
欠点は、高価なこと。
私はこれをメインに使っている。
根管仮封のメイン、水硬セメント・キャビトン
酸化亜鉛ユージノールセメント
粉液を混ぜて使うセメント系仮封材。
接着性を持つため、高い封鎖力を持つ。
粉と液を練板で練る必要があるため、操作性が悪い。
硬く硬化するため撤去が大変。
根管治療後の補綴時に、レジンセメントの硬化を阻害する。
さらに細胞為害性を持つため、歯ぐきぎりぎりに使うと、軽い炎症をおこす。
ただし、その封鎖力と硬さは捨てがたく、長期間の根管封鎖を余儀なくされるときは、使用することがある。
高い封鎖を持つ酸化亜鉛ユージノールセメント
テンポラリーセメント
仮封材とは少し違うが、仮歯や補綴物を一時的にとめるセメント。
状況により、接着力の違うものを用いる。
動揺の大きい歯などに、接着性の高いものを用いると、撤去の際大変な思いを強いてしまうことになる。
仮着の主役、テンポラリーセメント・ハード
やや弱い仮着に用いるテンポラリーセメント・ソフト
二つの基剤を混ぜて使うテンパック
余談
長期の海外出張をされる患者の話。
もし、仮歯が取れたら現地(オーストラリアだったと思う)の歯医者で仮止めしてもらうよう指示をした。
テンポラリーセメントで。
案の定、とれてむこうの歯科医院でつけてもらってきた。
ところが、合着(最終接着)されているようで、どうやってもとれる気配がない。
仕方なく仮歯を壊して撤去し、作り直すハメになった。
なぜこのようなことになったのか。
実はテンポラリーセメントは和製英語であった。
英語では、テンポラリー・セメンティング・マテリアル。
セメントという部分を、オーストラリア歯科医師は接着するととらえ、合着したのだ。
私が英語ができなければ問題は起こらなかったと思われるが、なまじ使えるだけに和製英語を疑うこともなく指示した結果。
言葉の壁は難しいものである。
仮封材を考える 完