初診時の所見
70代女性、右下5番の破折を主訴に来院。
上顎との咬合が成立している唯一の歯牙であったため、力が集中し、唐揚げを食べた際ついに破折したらしい。
初診時のパノラマ写真。右上5番の根尖部に嚢胞、右下5番のコア逸脱がみられる
根管治療後、コアのみの植立しか行われなかったため、コアが歯を突き破り壊れたものである。
下顎前歯部には同じように、根管充填後、全部被覆冠にされていない歯牙が多くみられる。
生活歯と違い、代謝の停止した失活歯(神経の抜かれた歯)は枯れ木のようにもろくなっている。
そのため芯材と全部被覆冠で修復しないと、破折リスクがはねあがるのだ。
根充のみで、補綴のされていない前歯群
治療方針
下顎
根破折歯は保存不能につき抜歯。
下顎前歯部の根管充填歯は、病巣などがみられないので補綴する。
経年の劣化により変色著しく、審美的な要求が高いため、メタルボンドによるセラミック治療を希望された。
また、右下の欠損部位は、金属バネを用いないAIデンチャーによる自費補綴となった。
上顎
上顎5番に歯冠大におよぶ大きな歯根嚢胞(のうほう)が確認された。
頬側にはフィステル(膿の出るろう孔)がある。
既存のコアが極めて大きく、歯冠上部からの根管治療では破折のリスクが非常に高いため、外科的な病巣治療が妥当とした。
ただし、通常の歯根端切除をおこなうと、残存歯の歯質を大きく損なう可能性が大きい。
そのため、手術を2回に分け、一回目は嚢胞摘出をおこなう減量術。
期間をあけて、ある程度の骨量回復の経過を見た2回目に、最小限の歯根端除去をおこなうこととする。
それでも改善がみられない場合は、側枝などを考慮に入れ、大きく歯根を切除する。
上顎残存歯はわずか3本、しかも義歯の鉤歯になるため、少しでも歯根の長さを温存したい。
術前デンタル
手術
頬側粘膜からの切開をおこなう、。
弓状切開で、フィステルを追うように粘膜を剥離すると、思っていたよりも入口は狭い。
わずかに入口を広げ、内部の嚢胞を剥離除去する。
特に気をつけなくてはならないには、歯根の裏側。
嚢胞の一部などが残りやすい。
根尖部には赤黒いざらっとした歯石状の物があった。
コレステリン結晶だ。
これが汚染の本体で、根管治療では何ともならなかった可能性が高い。
ハンドスケーラーを駆使し、根尖付近を滑沢化する。
術野すべての汚染源となりうるすべての物を除去したのち、閉創する。
予後
一次手術から3か月後、フィステルの再発はみられず、デンタル上では病巣の縮小傾向がみられた。
3か月後デンタル・病巣の縮小傾向がみられる
1年後には病巣の完全閉鎖と、歯根膜の再生が確認された。
原因は根尖外に存在した、汚染のあるコレステリン結晶と結論した。
2次手術以降の処置は必要なし。
1年後デンタル・歯根膜の再生がすすんでいる。7番は治療中
その後、5年近くが経過するが、予後は良好である。
外科的な根尖病巣治療 完