抗生物質は20世紀の人類の発見したもののうちで、最も偉大なもの。
カビなどの微生物がつくりだす、細菌の発育を阻止する物質。
現在では、細菌がつくりだしたものを修飾したり、人工的に合成したりと、その種類は多岐にわたる。
これにより多くの不治とされてきた病気が、治せるようになった。
発見から100年を前にして、人類は大きな問題にぶつかっている。
すなわち、耐性菌の登場である。

耐性菌は、薬剤がターゲットとする細菌が、薬剤に対して抵抗性を持ち、効かなくなったもの。
現在、不適切な投薬が原因で、多くの薬剤耐性菌が出現した。
そのため、人命にかかわるような状況で抗生剤が効かず、多くの命が失われている。
経済協力開発機構の報告では、投与されたものの半数以上が不適切であると警告している。

抗菌薬は今や、医療以外の領域でも大量に使用されている。
例えば、畜産や漁業の養殖、農業など。
本来、生きるか死ぬかという場面で使用すべきものが、経済性を上げるといった目的で大量投与される。
背景には、販売先を広げたい製薬会社の意図がある。

インターネットの薬の通販もひどいものだ。
アマゾンでは買えないが、今や個人輸入という形で様々な抗菌薬を手に入れることができる。
手に入れることができる薬の中には、重篤な症例でもめったに使用しないものさえある。
それが、性病や歯周病に効く、などとうたわれて販売されている始末。
正直、多少見識のある医療関係者であれば、戦慄を感じるだろう。

そして不適切な抗菌薬の使用は、歯科とて無関係ではない。
いや、歯科こそ不適切な抗菌薬の使用の温床であり、それが省みられることがない。
私の周りの歯科で、適切な処方をおこなっている歯科は1割もないだろう。
医科では、大学病院をはじめ、様々な機関がガイドラインを作成して、使用を適正なものにしようと努力しているため、マシではある。

抗菌薬は、人類全体の財産である。
不適切な使用が、この計り知れない価値を無に帰してはならない。
では、どのような根拠を基に抗菌剤を使えば良いのか。
今回からしばらく、抗菌薬の作用機序、薬物動態などをふまえて説明していく。