誤嚥とは、食べ物や唾液、異物が、気管に侵入すること。
場合によっては、命にかかわる。

食道と気管の分岐点には、喉頭蓋という気管のふたがある。
ふだんはこのふたは開いていて、肺の空気の交換をになっている。
そして、ものを飲み込むときにはこのふたが閉じて、気管への異物の侵入を防ぐ。
この喉頭蓋の機能があいまいになったときに、誤嚥はおこる。

原因としては、加齢などによる喉頭蓋の運動にかかわる筋肉の弱体化。
そして、運動をつかさどる中枢が梗塞などで機能障害をおこしている場合。
前者は嚥下訓練などで、回復が見込める。

65歳以上を高齢者とよび、今や人口の四分の一近くを占めている。
そして、その死因の原因の第三位が肺炎。
実はその9割近くが、誤嚥が関係している。

北大口腔外科が放射線マーカーでトレースしたところ、肺炎の原因菌の多くが口腔由来であることを突き止めた。
つまり、高齢者の肺炎の多くが誤嚥性肺炎ということ。
歯垢などの歯牙の細菌が、誤嚥性肺炎の原因菌となっている。
それゆえ、歯牙のない総入歯の患者は肺炎になりにくい。
これらの根拠をふまえて、私は治療方針を年代別に変えている。

ひとつは、口腔清掃。
ただでさえ、高齢者は歯周病が進行しており、リスクが高い。
定期的な口腔清掃は、肺炎ワクチンよりはるかに効果が高いと考えている。

そして、あまりかえりみられないのが補綴物。

保険の低廉な前装冠などは、接触している歯肉の炎症は避けられない。
年齢が進むにつれて、セラミックや金歯などの歯垢の付着が少ないものが威力を発揮している。
手先が不自由になってきた年齢では大いなる違いがみられる。

入れ歯は、少数歯欠損であっても、ある程度の大きさを持つものを設計する。
確かに大きな入歯は装着感が悪い。
しかし、一歯義歯などの小さなものを誤嚥してしまうと、命にかかわるからである。
場合によっては、清掃しにくいリスクを取っても、ブリッジにすることも。
飲み込みの危険性は、設計の大きな要素と考えている。

多数歯欠損であれば、もとより入歯の大きさが見込めるので、清掃性を最重視する。
極力ブリッジなどの連結歯は使わない。
もし不自由になったり、要介護の状態となっても、入歯は外して洗えるし、連結歯と違い清掃は比較的容易。
当然、高度な清掃管理を要求されるインプラントは、清掃維持が難しくなる場合があるため避けるべきである。

喉頭蓋の機能の低下は、高齢になる以上避けられないこと。
誤嚥は、避けられない。
それゆえ、いかに誤嚥をおこしても最小限の健康被害にとどめるかが重要。
年齢を考慮しながら、リスクマネジメントしていく、このことが健康寿命をのばすことにつながると考えている。

誤嚥を考える 完