根管治療ことはじめ
根管治療は難しい。
それゆえ、歯科医師は歯の根の解剖学を徹底的に頭に叩き込んでおく必要がある。
ところが、根管治療は赤字の部門。
お金にならないことは、勉強されない傾向にある。
私は歯科医師1年目の時、研修先医院にあった抜去歯を、徹底的に解剖しまくった。
朝早くいったり、昼休みであったりと。
その数、数百本。
そこの医院から、抜去歯が消えた。
生体内にある歯ではないので、歯の上部からだけでなく、最後は逆からスライスして根管の形態を確かめることができた。
これにより、座学では得られない、根管に対する絶対的な感覚を体得した。
協力してくれた先生には深く感謝している。
このようにして得られた感覚は、根管の走行を正確に把握させてくれる。
今回は、間違った方向に開けられた根管の修正症例である。
根管の方向を間違っていた症例
60代女性。
右下1番の歯冠破折のため補綴が必要となった。
レントゲン上では、中途半端な根管治療痕がみられる。
歯冠部は、コンポジットレジンで修復されており、その下部が二次カリエスのため崩壊したためである。
通常、根管治療がおこなわれた歯であれば、コアを立ててその上にクラウンがのることになる。
しかし、コア形成をした時点で、根管充填剤はすべてなくなってしまうだろう。
根管治療からおこなうことにする。
外れていたルート
レジンと、根管充填剤を除去した時点で、根管から大きく外れていることがわかった。
要は、以前処置したドクターは、根管を見つけることができなかったため、そこまでで詰めてしまったのである。
下顎前歯の根管形態は、神経からまっすぐに上方に延長すると、歯の前面を突き抜ける。
前医が、歯の裏側から神経を探りに行ったため、神経に行き当たれなかったというわけだ。
間違った開削方向
まちがって開けられた根管イメージ図
しかるべき方向への根管開削
このような根管の探索は、歯の切端ギリギリまで上部根管の拡大をおこなうこと。
そこから、少し内側をあけていく。
この患者はこの時点で痛みを訴えた、神経が残っている証拠。
麻酔をかけて麻酔抜髄となる。
根管を修正していく
根管孔写真
根管の方向はこれだけ違う 白いファイルが正しい方向
根管治療の失敗のため、神経は刺激から身を守るため狭窄している。
閉鎖した根管の、あるべき位置に高濃度のEDTAで軟化させながらファイルを進める。
あるところまで来ると、ファイルが入るポイントがあった。
そこからは慎重に細いファイルから拡大し、根尖に到達した。
最終60番のファイルで根管形成をおこない、FCを貼薬。
後日、無事根管充填をおこなった。
予後は良好である。
求められる基礎知識
根管治療において、歯牙の解剖学的な知識は重要である。
根管が見つかってないないぐらいはまだマシで、突き抜けて破壊された根管を目にすることは少なくない。
歯牙の形態把握は、歯科医師に求められる基本的な技量。
巷の歯科医は、インプラントの営業に精を出すのは良いが、少なくとも最低限の治療への知識を持っていただきたいものである。
見失われていた根管 完