親知らずの抜歯

40代女性。
2月に左下の親知らずを抜歯することになった。
もともと去年の3月に、この歯が腫れて来院し、消炎後抜く予定にしていた。
ところがあろうことか反対の右側の親知らずが腫れてしまい、こちらを優先したというわけ。
その後、仕事が忙しかったりと、なかなか抜く機会がなくて流れ流れになっていた、というわけ。

若いうちにさっさと抜いておけば良かったんですかねえ、という。
一概にそうとは言えないのが親知らず。
ただし、問題がある場合は抜かなければならない。
今回は、その親知らずの抜歯のタイミングを説明する

親知らずの症状

親知らずが問題をおこして、症状が出る場合は主に二つ。
智歯周囲炎といって、まわりの歯ぐきが腫れる場合。
原因は親知らずの清掃不良。
もう一つは、虫歯による痛み。

智歯周囲炎は、一時的に薬などで抑えても、再発する傾向が高い。
再発するようなら、手前の歯を守るためにも、抜歯した方が良い。
知らず知らずのうちに、手前の歯まで歯周病の巻き添えを食らうことが多いからだ。

虫歯は、神経に達するようであれば抜歯した方が良いことが多い。
日本人の顎は小さくなる傾向があり、親知らずを十分に清掃・管理できないことに加え、この歯は歯の根が複雑で予後が悪いため。
そもそも、磨けない位置にあるため虫歯になっている場合が多く、残しておいたところで歯周病の起点になるなど、トラブルの種である。

水平埋伏智歯。当院では抜歯可能
水平埋伏智歯

抜歯のタイミング

抜歯のタイミングは年齢や健康状態などにより、様々である。
抜歯に至るイベントごとに説明する。

智歯周囲炎

親知らずが腫れた、というのは最も多い抜歯理由。
腫れたタイミングでは麻酔が効きづらく、抗生剤で消炎してから、抜歯する。
腫れが複数回に至ったときは、間違いなく抜歯時期。
回を追うごとに、腫れがひどくなるためである。

虫歯

痛みがでたら、即抜歯が多い。
検診を受けていれば、痛みが出る前に抜歯することができる。

歯ぐきに食い込む

伸びてきた親知らずが、向かいの歯ぐきに食い込んできたら要抜歯。
親知らずの咬頭(とがったところ)が歯ぐきに食い込むと、口内炎を通り越して潰瘍状になり、日常生活に支障をきたす。
一時的に咬頭を丸めて、抜歯時期を先に延ばすこともある。

35歳

35歳という年齢は、歯周病が症状として出てきだす年齢。
45歳では、統計的に虫歯で失われる歯より、歯周病で失われる歯の方が多くなる。
つまり、歯周病が本格化する前に、歯周病の起点になりうる親知らずを抜いて、周囲の歯を温存するということ。

閉経

女性の場合、閉経を境に骨粗しょう症が進んでいく場合が多い。
骨粗しょう症の治療薬であるビスフォスフォネート製剤は、抜歯後に顎骨壊死の副作用がある。
それを防ぐため、早めに抜いておくのが賢明。

循環器・脳血管障害

これら血管にかかわる疾患では、血をサラサラにする薬を服用し続ける。
つまり、血が止まりにくく、抜歯が困難になる場合がある。
そのため、服用前に抜歯をおこなっておく方が安心である。

基礎疾患・生活習慣病

高血圧、糖尿病といった疾患もまた、抜歯を困難にする。
抜歯を困難にする薬剤の服用や、疾患自体がもたらす易感染性などがあるためだ。
場合によっては、高次の医療機関での抜歯や、抜歯不能といったことも珍しくはない。
疾患が重篤化する前に、疾病をコントロールされた状態での抜歯をおこなう。

総論

親知らずの抜歯を含め、行われるべき外科処置は、健康なうちに済ませておくことが重要。
事と次第によっては、肝心な時に腫れたり痛みがでたりする場合もあるし、海外旅行時などは目も当てられない。
何より、抜ければよいが、健康状態によっては抜歯ができなくなる場合すらある。
そのためには、健康なうちに抜いてしまうことが一番安全で、トラブルが少ない。
抜歯を先送りにする気持ちは理解できるが、タイミングをみて思い切るのが賢明といえよう。

なお、当院では、横向きに生えた親知らずなどの難抜歯をおこなっている。
他院で断られた方、大学病院での抜歯をすすめられた方は、受診をおすすめする。

親知らずの抜き時は 完