ヘミセクション
50代女性、左下6(第一大臼歯)の破折を主訴に来院。
他院では抜歯すると言われたとのこと。
初診時の所見
右下の大臼歯部は、金属クラスプの片側義歯が入っている。
食品が義歯症下にはいるという。
初診時のパノラマ写真
左下のデンタル
左下6の近心根は完全に破折し、周辺の骨吸収を認める。
隣接する5番はジャケットクラウン、7番は保険の金銀パラジウムのクラウンが入っている。
根分割抜歯
破折歯の遠心根は、破折している様子はない。
近心根のみ、根分岐部付近で切断し抜去、遠心根を残すヘミセクションをおこなうことにした。
平たく言うと、部分抜歯である。
根分割中のデンタル
歯根分割抜歯をおこない、遠心根のメタルコアはそのまま利用することにする。
抜歯窩の回復に4か月を要した。
治療の選択肢
抜歯窩が治り、補綴の選択の時期が来た。
いくつかの選択肢がある。
義歯を利用する方法
現在の右側の片側義歯を、両側義歯にする方法。
左側にも連結装置を延長し、6の近心に人工歯を配列する。
義歯が両側にまたがることで、剛性が向上し右側も咬みやすくなる。
この場合は、残った6遠心根は小臼歯サイズの単独補綴となる。
前後の歯に手を加えないで済むというメリットがある。
インプラント
単独でインプラントをおこなう方法。
年齢的にはギリギリ悪くはない。
前後の歯を傷つけないで済むが、手術が必要で、コストも高め。
ただし、将来的に前後の歯が悪くなった場合、歯牙同士の連結という手段がとれなくなる。
(インプラントと天然歯のブリッジをおこなう歯科医もいるが、言語道断である)
この場合は、当院から紹介の形で信頼できるインプラント医にお願いする。
ブリッジ
残った6遠心根と、隣接する歯牙をつなぎ、6近心の空隙をダミーで埋める方法。
隣接する歯牙はいずれも神経の治療済みのため、既存のクラウンを外せばよい。
左下7を利用するブリッジ
6⑥⑦のブリッジ。
奥の7番と6遠心根を支台にし、手前に延長する逆延長ブリッジ。
保険治療ではこの構造は取れない。
今回は7番の歯周組織が、あまり理想的ではないので採用しなかった。
左下5を利用するブリッジ
⑤6⑥のブリッジ。
手前の5と6遠心根を利用するブリッジ。
6は小臼歯形態となる。
今回はこの形態を採用することにした。
補綴の流れ
患者は、審美的な要素に加え、金属アレルギーの懸念を他科より指摘されていたため、メタルフリーの補綴をおこなうこととした。
セラミックの治療なので、この先は自費治療となる。
左下の5番のジャケット冠を除去、コアが入っていなかったため、コアの印象をおこなう。
光の透過性を得られるファイバーコアとした。
ブリッジの素材は、ジルコニア(人造ダイヤ)を用いる。
ジルコニア単体では、色が単調なので人工感が出てしまう。
一番奥の6遠心支台部分のみジルコニアの削りだしで、手前の5と6近心はジルコニアの上に陶材を焼き付けたジルボンドとする。
支台の様子
模型上の支台
模型上でのブリッジ
口腔内に装着の様子
ヘミセクションした歯牙は、切断部位の歯根膜の上縁が根分岐部までしかない。
それゆえ、クラウンの下縁はその位置まで下げる必要があり、歯周ポケットはその部位で深くなる。
そのため、歯垢などの親和性が高く、精度の劣る保険の銀歯(金銀パラジウム)では予後が悪い。
今回は、セラミックを用いたため、そのリスクは低くなっている。
審美的にも良好で、最低限の侵襲で治療できた症例である。
ヘミセクション症例 完