歯科治療と放射線

この一週間、何人かの患者に、レントゲンを撮りたくないと言われた。
当院ではほとんどこのような要望は出なかったのであるが、聞くと被ばくを恐れているとのこと。
歯科治療レベルでの被ばくは微々たるもの、問題ないどころか撮らないことで情報が得られないリスクの方が比べられないくらい大きい。

これは、ネット上に散乱するジャンクサイエンスの影響も大きい。
それどころか、東日本大震災後は、共産党議員が放射能で鼻血が出たなどと、デマをまき散らす始末であった。

この際、放射線に関する正しい知識を書いていく。
誤った知識に踊らされずに、より良い治療を受ける一助となれば幸いである。

放射線とは

電離放射線とは、物質を電離させる能力を持つ電磁波や粒子線。
前者を電磁放射線、後者を粒子放射線とよぶ。
放射線とは、物質にエネルギーを与える性質があるものである。

エネルギーを与えるゆえに、高線量の放射線は対象に直接的破壊をもたらす。
これは、赤外線が弱ければ暖をとれるのに対し、強ければ火傷するのと同じ原理。

電磁放射線は、実は範囲が広く、赤外線・可視光線・紫外線・X線・ガンマ線をさす。
違いは波長による特性。
そして波長の短い電磁放射線は、高い透過性を持つ。
透過性は対象の物質により異なる。
この性質を利用したのが、レントゲン。

放射線はあたった物質にエネルギーを与える性質を持つ。
そして、レントゲン撮影に用いられるのは、電磁放射線であるX線。
レントゲンで用いられる放射線は、放射線と呼ばれるもののうちでも、極めて狭い範囲のもの。

胸部レントゲン

被ばく

細胞と放射線

極めて強度の放射線を浴びた場合は、細胞の生命維持ができないレベルにまで一気に変化を受ける。
これは、人間が電子レンジに放り込まれたようなもの。
原子炉など特殊な状況でなければおこりえない。
問題は、即症状が出る場合ではなく中長期的な影響だろう。

放射線を受けると、組織によって影響度は異なる。
その影響を受ける度合いを、放射線感受性という。

放射線感受性は、
細胞の増殖が旺盛なものほど、
分裂を何度も繰り返しているものほど、
未分化なものほど、高い。
この原理を利用したものが、ガンの放射線治療。

放射線感受性の正体は、DNA鎖の切断にある。
切断されても、DNAは二本鎖で、非破壊側のDNAにより元通りに修復される。
ところが、二本が破壊されると、遺伝情報に誤りが出る。

多数の誤りが出ても、ガンの発生に必要な遺伝子コードにまで書き換わることは、極めてまれ。
そもそも修復不能になった時点で、ほとんどの場合、アポトーシス(細胞死)で破壊される。
ただし、持続的に放射線を浴び続けると、確率は上昇する。
直接的な障害でなく、遺伝子に変化を及ぼす障害は確率的なもの。
運が悪ければ、自然放射能でもガン化するし、運が良ければ大量に放射能を受けてもガン化はしない。

では、なぜチェルノブイリ原発事故のあと、ガンが多発したのであろうか。

続きます。