歯周組織図説 その3
歯周病を防ぐには、きちんとした清掃が必要。
しかし、虫歯などで、かぶせものを装着した歯は、清掃していても歯周病がすすんでしまうものがある。
修復物による歯周組織への影響
保険治療のかぶせもの
日本の健康保険で受けられる治療は、最低限の機能回復。
材料には、本来使われるべき金合金やセラミックは高価ゆえ使われず、代用品の銀歯やプラスチックなどが使われる。
これらは代用品ゆえ、汚染に弱く長期維持は想定されていない。
とはいえ、この値段で、かぶせもの(クラウン)を入れられる国は世界中探しても他にはない。
前歯部の保険適用歯・硬質レジン前装冠
銀歯やプラスチックは、歯垢などの汚れに対する親和性が非常に高い。
また、保険製品は廉価ゆえ、適合精度が甘いというのも問題。
最近は中国製も多くなってきている。
歯牙との接合部や段差は汚染源の絶好の沈着場所。
そのため、歯ぐきの中に一部埋め込まれるクラウンは、常に歯ぐきに汚染を与え続け、歯周病を誘発する。
一生良い状態を維持し続けるのは、非常に困難。
セット時の硬質レジン前装冠
徐々に歯肉に炎症が出てくる
歯周病がすすみ、樹脂も変色がすすむ。歯の寿命は望めない
歯周病がすすむと歯ぐきは下がり、歯の上に前装冠が乗っかっているのが丸わかりとなる。
そして問題なのが、退縮した歯ぐきの下から、硬いエナメル質に覆われていないセメント質が露出すること。
防御力の強いエナメル質がないため、簡単に虫歯になってしまう。(二次う蝕・根面う蝕)
クラウンにしている時点で神経を除去してある場合も多く、虫歯が入り込んでも痛みを感じずに手遅れになる場合が非常に多い。
そもそもクラウン下部の深いところの虫歯は、発生した時点で治療不能という場合も多い。
根面う蝕。クラウンの下の脆弱な部分から侵入する。
内部に侵入したう蝕は、無自覚のうちに拡大し、最後は根元で歯が折れることが多い
保険外のセラミック・金歯
セラミックや金歯は、本来あるべき歯科治療の材料。
日本以外の国では、これらが用いられる。
長期維持・永続使用を目的とする材料であるため、一生持つ可能性が高い。
汚れに対する親和性が非常に低く、歯垢や歯石を寄せ付けにくい。
また、十分なコストをかけれるため、顕微鏡下で極めて精巧につくられる。
精巧につくられるうえ、汚染されにくいセラミック
セラミック・金歯は汚れがつきにくいため、経年変化が非常に少ない
経年比較
保険適用のクラウンは、いくらていねいにお手入れをしても、経年的に歯牙そのものに寿命が来てしまう。
これは、30年の間で痛んだ箇所をやり替えたりした上での話で、それ以上は治療不能となり抜歯になるということ。
クラウン自体が痛んでなくても(変色除く)、歯牙本体や歯周組織が痛んでしまうため。
臨床で体感的には、前歯部の前装冠では歯牙にクラウンが初めて入った時から30年で、80%以上が歯牙の喪失にいたる。
対してセラミック・金歯は、歯周組織に影響が少ないため、歯牙の寿命は相対的に長くなる。
絶対にダメにならない、というわけではなく、残存率に大きな差が出るということ。
保険の前装冠・自費のセラミックの歯垢を染めたもの。汚染に格段の差がみられる。
保険の前装冠周囲のの経年劣化(約25年)。清掃状態は悪くはないが退縮は免れていない
セラミックの経年使用例(20年以上) 歯肉の退縮はわずか
上の症例をを裏側からみたもの
劣化し変色した前装冠(25年経過)と、変化のないセラミック(30年経過)
総論
保険で適用されるクラウンは、その物性ゆえに、お手入れ如何にかかわらず、やがては歯牙本体が喪失の憂き目となる。
日本の高齢者の義歯装着率が高いのは、ひとえに保険制度があり、低廉短寿命の補綴物を使用しているからといえる。
最も重要なのは、手入れや検診で虫歯にしないこと。
保険のクラウンなどを入れることになれば、歯の寿命は半ば確定したといって良い。
歯医者は、痛くなってから行く、では後々大変な思いをすることになる。
続きます