HIV、ヒト免疫不全ウイルスは、後天性免疫不全症候群(AIDS / エイズ)の原因病原体である。
私は今まで二人のHIV感染患者の治療に携わった。
一人は、以前勤めていた医療法人で、もう一人は北大病院で。

医療法人で治療にあたった患者が問題だった。
なんと、問診票で病歴無しにチェックが入っており、HIV感染が分かったのは1年以上後のこと。
本人は分かっていた、しかし我々にはそれを隠そうとしたのだ。
私はかかわった医療施設すべてに標準予防策(詳しくはこちら)による、全人感染対策をしいていたため問題はなかった。

HIVを隠したい気持ちはわかる、しかしそれはご法度。
針刺し事故など、感染を拡大してしまう危険もある、それも知らず知らずのうちに。
当院が実施しているような標準予防策をとっていない医院だって多数あるのだ。
それに、免疫力の低下などがおきていると、歯科領域とはいえ感染症への治療方針も変わってくる。
全身疾患と向き合いながらの治療も考えられるため、大学病院などの高次医療機関での治療が望ましい。
HIV感染者ということで診療を断られることもあったのだろう、しかし受け入れ態勢のない医院としては好き好んでお断りをしているわけではないのだ。

エイズというのは後天性免疫不全症候群の疾患群名で、HIV(ウイルス)の感染者が全てエイズを発症しているわけではない。
エイズの口腔内に現れる病変としては、口腔カンジダ症、口腔毛状白板症、口腔内カポジ肉腫など。
いずれもHIVが直接の病原ではなく、免疫が低下した結果、他の病原体から発症した疾患。
口腔内にこのような疾患が出現した時点で、すでに肺炎などの他の疾患からエイズと診断されている場合が多い。
エイズは消耗性疾患、極度にやせ、眼窩がくぼむなど医療人であれば違和感をおぼえる。
歯科が第一発見である場合は、少ない。

エイズの発症は、HIV感染直後にはおこらない。
感染後、2週間から4週間でインフルエンザのような症状をおこしたり、全身のリンパ節が腫れたり、場合によっては無症状。
ほぼインフルエンザと勘違いする程度。
ウイルスは自身の好む細胞に侵入し、細胞を改造してウイルスを複製させる。
恐ろしいことに、HIVは免疫にかかわるリンパ球に侵入しているのだ。

それから無症候性キャリア期とよばれる、無症状期にはいる。
おおむね数年~10年ほどだが、個人差があり2年程度でエイズを発症する場合もあれば、20年近く発症しない人もいる。
この期間は体内で、HIVのターゲットであるCD4陽性Tリンパ球と、HIVの戦いの期間。
CD4陽性Tリンパ球は、免疫にかかわる細胞。
抗体産生をおこなうB細胞や、他のTリンパ球に抗原を提示したりと、免疫の司令塔的な役割を果たしている。

徐々にCD4陽性Tリンパ球がHIVにより減らされ、HIVが優勢になると免疫力の低下によりエイズ発症となる。
免疫力が低下した結果、普通であれば何の問題もない病原体が感染症として問題になってくるのがエイズ発症のメカニズム。
HIV検査などを受診していない場合、この段階での感染判明となる場合が多い。

HIVが恐ろしいのは、HIVが持つ生き残りのための戦略。
奇跡ともいえる巧妙さで感染を広げる。

続きます