トラブルの元凶・口呼吸
冬場、舌の痛みで来院される患者がちょくちょく増える。
高齢の女性に多い。
舌の痛みは、原因が多岐にわたるので厄介なのであるが、この季節はドライマウスが原因のものが多い。
直前に風邪をひいていることが多く、鼻が詰まって口呼吸になりがち。
高齢の女性は閉経後、安静時唾液の分泌量が低下していることが多く、さらに腺分泌を抑える鼻疾患の薬剤を服用したため、口腔乾燥をおこすというわけ。
夜中に舌が乾いて、目が覚めるようであれば、これが原因の可能性が高い。
このような風邪が原因のものは、時期が来れば自然と寛解する。
しかし、中には常に口呼吸になりがちな人もいる。
この口呼吸、実は健康上、非常に問題が大きい。
今回は、口呼吸について解説する。
正常な呼吸・鼻呼吸
ヒトの呼吸の正常スタイルは、鼻呼吸。
鼻は臭いをかぎ分ける以上に、呼吸を通して重要な役割を持っている。
その役割は主に3つある。
フィルター機能
ひとつは異物の除去。
最初に鼻毛で大雑把にほこりなどが除去される。
続いて、行われるのが細菌やウイルスの除去。
鼻腔はヒダなど複雑な形態をとっており、我々が思っている以上に表面積に富み、ここに繊毛や粘膜といったトラップが分布する。
この繊毛や鼻粘膜で病原体を捕獲し、さらにアデノイドなどのリンパ組織で浄化をおこなう。
鼻腔・口腔の断面
加湿機能
実は鼻の加湿能力は半端ない。
鼻で消費される水分は、実に一日当たり1リッターにのぼるという。
冬場の40%程度の湿度の空気すら、鼻を通過すれば90%以上になるという高性能。
肺や気管はデリケートな組織、加湿や加温が十分におこなわれなければ、抵抗力が落ちてしまう。
加温機能
冷たい冬の朝に、思い切り口から深呼吸をして、せき込んだ経験をお持ちの方がほとんどだと思う。
これは、冷たい空気が直接気管を刺激したため。
鼻で呼吸すると、取り込んだ空気は体温近くまで温められる。
これにより、呼吸器が受ける影響は最低限にとどめられる。
口呼吸では
対して口呼吸では、これらの機能が不十分。
風邪などをひいて、のどがひりひりしたり、冒頭のように睡眠中に口が乾いてしまうのもそのためだ。
さらには、鼻腔でトラップされるはずの細菌やウイルスがダイレクトに入ってくるのは大問題。
防御力の劣る咽頭などが、直撃に近い形で病原体が侵襲する。
さらには直接入った冷気などで、抵抗力が落ちがちになる。
局所的に冷やされると、その部位の酵素活性が低下するためである。
これらの事象は、鼻呼吸と比較しての呼吸器への影響。
それ以外にも、口呼吸は口腔に大きな影響をもたらす。
続きます