抗菌剤には細菌の抑え方により、二つに大別される。
すなわち、殺菌的と、静菌的。
殺菌型の抗菌剤は微生物を殺滅することで効果をあらわす。
感覚的に述べると、細胞壁合成阻害型の抗菌剤は、細胞壁合成を阻害することで破裂させ、菌を殺すイメージ。
他にも、異種タンパクを合成させたり、DNAの切断をおこなう酵素を利用したりするタイプなど作用機序はいろいろ。
βラクタム系・アミノグリコシド系・キノロン系などがこれにあたる。
殺菌的抗菌剤の投薬時のイメージ
対して静菌的な抗菌薬は、微生物の発育・増殖を阻止することで効果をあらわす。
繁殖期に世代交代をさせないよう去勢して、残っている細菌の寿命のつきるのを待つイメージ。
そのため、漸減的に菌が減っていくため、一刻を争う重度の感染症の治療には不向きである。
しかしながら、静菌的抗菌剤にしか感受性をしめさない細菌があるため、代替が効かない場合に使用することが多い。
マクロライド系やテトラサイクリン系、サルファ剤等がこれにあたる。
静菌的抗菌剤の投薬時のイメージ
静菌的抗菌剤には使用にあたり、注意を要する。
すなわち、世代交代が4日の微生物であれば、理論的に4日服用すれば全ての細菌が世代交代できずに全滅する。
ところが、飲み忘れなどがあれば、飲み忘れた日に世代交代をおこす微生物が生き残ってしまい、効果はゼロ戻ってしまう。
ゼロどころか、下手に抗菌薬に暴露された上に、生き残ってしまった細菌は、薬剤耐性を獲得しやすい。
静的抗菌剤の飲み忘れによる薬剤耐性獲得のイメージ
例を挙げると、結核の治療には、6か月を要する。
結核菌は非常に分裂の遅い菌で、世代交代の間隔が非常に長い。
そのため、約半年の間、切らすことなく抗菌剤を服用し続けなくてはいけないのだ。
ところが、一部の身勝手な人間が、症状が軽くなったところで、服用を勝手に中断したため耐性菌が出現し蔓延している。
現代の日本において、結核は無縁の病ではない。
新規結核患者は、人口10万人当たり20人近く、先進国中最悪。
芸人のハリセンボンの箕輪はるかさんが、結核で療養したのは記憶に新しい。
特に日本最後のスラム、大阪市西成区のあいりん地区では、罹患率は10万人あたり1570人と南アフリカのスワジランドの3倍以上。
世界的には全人口の3分の1が感染している重大な感染症なのだ。
そのような巨大な感染症が、一部の人間のエゴにより治療が困難になってしまっている。
抗菌薬という、人類全体の宝を使って治す以上、ある程度の治療方針の強制も必要ではないだろうか。
人権を叫ぶのは勝手だが(ハンセン病治療の問題もあった)、それが人類全体の不幸を招きかねないのはいかがなものかと思う。
続きます