前回は薬物動態について触れたが、今回は薬力学・薬物の効果的な投与法だ。
殺菌的な抗菌薬には、最少発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration / MIC 我々はミックとかエムアイシーと呼ぶ )というものがある。
文字通り、菌の発育を阻止するのに必要な抗菌薬の最小濃度ということ。
血中や組織内の抗菌薬濃度が、MICを上回っている間は、菌の増殖が抑えられる。
実際には、組織間で濃度のばらつきがあったりするので、ぎりぎりの投薬はおこなわない。

 

抗菌薬の血中濃度曲線

最少発育阻止濃度の基本グラフ

抗菌薬を服用した場合、通常薬物の血中濃度は上のグラフのような経過をたどる。
ここで問題になってくるのは、その投与法。
抗菌薬は、濃度依存性と、時間依存性の、二つのグループに分けられる。

濃度依存性は、血中濃度のピークを高くすることで効果が増すタイプの薬剤。
ガツンと高い濃度を短時間でも得ることで、菌の発育を効果的に阻止できる。
キノロンやアミノグリコシド系の抗生剤がこれにあたり、1日一回まとめて飲むのが適正。
よく目にする薬では、クラビットなど。
イメージでいうと、強火で一気に調理する、みたいなニュアンス

 

 

濃度依存性抗菌薬の血中濃度曲線

濃度依存性抗菌薬の血中濃度曲線

 

強火で一気に

濃度依存性抗菌薬の作用イメージ

 

 

対して時間依存性は、MICをこえている時間が長いほど良い、というタイプ。
ある程度の濃度をこえていれば、それ以上に濃度を上げても効果は変わらない。
セフェム、ペニシリン、カルバペネムあたりがこれにあたる。
よく見る薬では、フロモックス、バナン、メイアクト、トミロンなどの、毎食後に飲むもの。
イメージでいうと、じっくりコトコト、弱火で長時間というイメージ。

時間依存性抗菌薬の血中濃度曲線

時間依存性抗菌薬の血中濃度曲線のグラフ

弱火でことこと

弱火でことことのイメージ

したがって、薬効を強力にするには、濃度依存性ならばまとめて飲み、時間依存性であれば総量は同じでも飲む回数を分散して回数を増やすこと。
もちろん、MICを上回っていなければならないし、毒性のあるレベルまで服用してはならない。
*注:時間依存性でも、少なくともMICの4倍程度の血中濃度が必要。組織によってばらつきがあるため。

ところが、日本の医学界はこのような薬理学を軽視してきた。
クラビットは今でこそ一日500㎎のものを一錠だが、同じ系統の濃度依存性のキノロンを分散投与を推奨してきた。
歯科はさらにいい加減で、私の使用しているレセプトコンピューターの処方箋のフォーマットは、いまだにクラビットは一日3回服用のままである。
実際に患者のお薬手帳をみると、多くの医院が濃度依存性の薬剤の分散投与をおこなっている。
もしお薬手帳をお持ちであれば、チェックしてみてほしい。
抗菌剤の投薬は、感染症治療(歯周病の腫れなども)の主力。
それなのにその武器を有効に使いこなせない医療関係者が多すぎる。
何度も書くが、医療は科学なのだ。

続きます