ウイルスが引き起こす難聴

先日、6歳の女の子が当院を受診した。
話しかけるも、反応が薄い。
どうしたのだろうかと思っていると、横にいたお母さんが手話を始めた。
先天性の難聴であまり音が聞き取れないのだという。

来院される患者で、全く音が聞き取れない人が何人かいる。
当院では、各ユニットにレントゲンをうつし出すパソコンモニターが設置してある。
大人であれば、それを使って、パソコンにキーボードを接続して、モニターに打ち込むことで会話している。
ちょっとしたことだが、これだけで介助の人が付き添わなくて良いので、ずいぶん来院のハードルは下がっているはずだ。

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筆談

難聴の原因

さて、この子の難聴の原因は、サイトメガロウイルス(CMV)感染症。
これもヘルペスウイルスの一種である。
この難聴に特徴的なのが、先天性にもかかわらず、遅発性ということ。
生まれたときは聴覚検査に引っかからないが、その後難聴が進行し、3歳ぐらいで音を感じにくくなる場合が多い。
また、発達障害などの、神経障害を伴うことがある。
難聴としての割合は、遺伝的要因に次ぎ、新生児全体の0.2%ほど。

サイトメガロウイルス

サイトメガロウイルスは、他のヘルペスウイルス同様、感染してしまうと体内から駆逐できない。
さらに、このウイルスは体内のいろんな臓器に潜伏する。
感染はキスや性交渉、母乳、産道感染、飛沫感染など防ぎようがないほど多岐にわたる。
そのため、多くの人が感染しており、成人期前後の感染率は7割ほどにのぼる。

胎児への感染

このウイルスは、他のヘルペス同様、初回感染時の影響が大きい。
とはいえ、多くは症状の無い不顕性感染である。
影響を受けるのは、妊娠中の胎児。

初回感染時は、体内でまだ抗体がつくられておらず、ウイルスは体内で自由に活動できる。
これが妊娠と重なると、胎児にウイルスが移行してしまう。
胎児に感染する確率は、約40%ほど。
感染した赤ちゃんのうち、何らかの症状が出る確率は、約10%。

新生児に出る症状としては、低出生体重、小頭症、運動・精神発達障害など。
そして約半数に難聴があらわれる。

CMVウイルスとどう向き合うべきか

このウイルスが子供に難聴をもたらすには、たまたま妊娠時に初回感染をし、40%の確率の胎児感染をし、さらに症状の出る10%をくぐり抜けなくてはならない。
感染を防げるわけでもないので、非常に不運としかいえない。

不幸にも、CMV難聴にかかったらどうするべきか。
幼児の音の反応が、鈍かったりしたら、迷わず医療機関を受診すべきである。
3歳前後は、言語発達の時期である。
この時期には子供は自発的に難聴を訴えないし、気づいてもいない。
発見が早ければ、補聴器や人工内耳等の補助聴覚で、発育への影響を最小限にできる。

聴覚だけではなく、何事も違和感を感じた時点で医療機関にかかる習慣をつけるのが賢明だ。

続きます