タバコと白板症

50代男性。
かなりのヘビースモーカーである。
禁煙とまではいかないが、加熱式タバコへの切り替えをすすめて、だいぶ燃焼式タバコの本数が減っていた。
それでもタバコはやめられない。

治療後もずっと、歯石やタバコのヤニの除去で定期的に来院されていた。
あるとき、ほっぺた裏の口腔粘膜が白くなっていることに気付いた。
わずかに肥厚をみとめる。

部位からみて、最初は食いしばりによる粘膜への歯の圧痕かなと思っていた。
しかし、ひと月後の経過観察でも変化は見られない。
粘膜病変の疑いあり、それも白板症の。

白板症とは

粘膜の上皮が角化亢進し、肥厚した斑状または不定形の白色病変で、ぬぐっても除去できない。
細胞異型性を伴い、前癌病変に分類される。
癌化率は、5~15%くらいと、資料によって差がある。
原因は、歯の鋭縁による慢性的な刺激や、ビタミンA不足、アルコール、喫煙など。
喫煙者の白板症の罹患率は、非喫煙者の実に5倍以上。
特にタールが悪影響を与える。

白板症は、その異型性の度合いによって、ガン化のリスクが異なる。
高度異型性の場合は、ガン化のリスクは高い。
一見白板症でも、その内部ではすでにガン化がおきている場合があるため、組織検査は絶対に必要である。
以前も、私が見つけた白板症がすでにガン化していたケースがあった。(詳しくはこちら

口腔内の所見

一見すると、咬傷のように見えるが、病変はそれをこえる範囲で広がっていた。
注意しないと、騙される。

下顎最後方臼歯付近に白色病変がみられる
口腔白板症

白色病変近影
白板症拡大写真

病変部は青で囲った範囲内
白板症領域

上位医療機関への紹介

いつものように、大阪警察病院の口腔外科の部長の石濱先生のもとに精査を依頼する。
1か月後、石濱先生よりファックスにより送られてきた途中経過は、やはり口腔白板症。
組織検査に移行するとのこと。

さらに1か月ほどして、病理検査の結果が送られてきた。
幸いなことに、組織検査の結果は、異型性の度合いは低度であり、経過観察で大丈夫だという。
しばらくは警察病院で経過をみるが、その後はこちらで診ていってほしいとのこと。
禁煙指導もおこなったとのことである。

総論

今回のケースは幸い低度異型性のため、大事には至らなかった。
とはいえ、前癌病変ゆえ、ガン化してもおかしくはなく、引き続き経過を追う必要がある。
白板症は、決して稀な疾患ではない。
当院でも今まで2千人ほどの患者が来院され、3人に白板症が見つかった。
うち一人はすでにガン化しており、あろうことか他院で見落とされていた始末である。
口腔内の白色病変が何週間も消失しなかったら、口腔外科などを受診してほしい。

この患者はヘビースモーカーであった。
タバコとの関連ははっきりしようはずもないが、リスクの一因であったことは確か。
できるだけ燃焼式タバコは控えた方が賢明である。

タバコと白板症 完