歯ぐきの色があわない症例

40代前半女性。
保険の両側性の入れ歯に抵抗があり、片側性の入れ歯を希望された。
嘔吐反射まではいかないが、気持ち悪くてつけていられないという。
また、保険義歯では思うように食べれないとのこと。
そこで、片側性かつ薄く仕上げられるAIデンチャ-を作成することにした。

下顎顎残存歯の状況
下顎の残存歯式

下顎の残存歯列
模型上での残存歯

設計

この患者は、歯ぐきにメラニン色素の沈着が激しく、赤黒色をしている。
ノンクラスプデンチャー(金属バネのない入れ歯)では、ウイング(樹脂バネ)が歯ぐきにかかる。
通常のノンクラスプデンチャーのウイングはピンク、口腔内では逆に目立つ。
AIデンチャーであれば、クリア樹脂の選択が可能。
クリアを使用することしか、目立たなくする方法はない。

試適

試適用咬合床を口腔内にセットしたところ、違和感はかなり少なくなったとのことで、形状は通常の設計とする。
試適の段階では、強度のある樹脂ではないためかなり厚みがあり、これで大丈夫であれば、まず問題はない。

問題は歯ぐきの色とのマッチング。
仮の樹脂ウイングを口腔内に試適すると、色の違いは一目瞭然。
クリア樹脂は前方2歯にわたって配置することにする。
義歯手前の4番は銀歯で、調整用ワイヤーは設計上さほど気にしなくても良いと思われるが、多少ひねった設計にする。

模型上での試適用咬合床
試適用咬合床

口腔内での咬合床の試適。ピンクでは目立ちすぎる
口腔内での咬合床

完成

クリア樹脂を大きくとったAIデンチャーとして完成。
調整用ワイヤーは歯ぐきより下はピンク、歯ぐきより上の歯と並ぶ位置はホワイトの樹脂でコーティングした。
これは、ワイヤー後方の銀歯を少しでも隠したい意図からだが、多分に実験的であり、コーティング無しでも問題なかったと思われる。
そもそも、この患者はスマイルライン(笑った時に見える範囲)が小さく、前方のウイングさえ目立たなければ十分である。

模型上でのAIデンチャー 咬合面観
AIデンチャー咬合面観

側面から
AIデンチャー側面観

口腔内でのAIデンチャー
AIデンチャー口腔内

クリアウイングのある側と反対側と
クリアウイング

総論

歯ぐきの色が黒っぽいため、クリアでなければ設計できなかった症例だった。
なお、口腔内写真ではクリア部分は浮き上がって見えるが、唾液が間に入ることで歯ぐきと一体化して目立たなくなる。
口腔内での違和感は、舌側の樹脂部分を可能な限り薄くすることで消失した。
咬合能力は、頬側に剛性を持たすことで満足できるレベルにまで向上。
何でもおいしく食べられるとのことだった。
今回実験的に採用した調整用ワイヤーの2色コーティングは、その後いくつかの症例で効果を発揮する礎となった。
クリア樹脂を用いるゆえの、内部構造の露出を防ぐ細工をステップアップさせた症例だった。