噛めすぎた入れ歯

60代後半男性。
片側タイプの入れ歯を希望。
左右にまたがるものが生理的に受け付けないとのことである。
片側ながらも、咬合能力に優れた入れ歯として、AIデンチャーでの治療となった。
上顎の入れ歯で、欠損は右上67のみ。

残存歯の状況
歯式

模型上での残存歯の状況
残存歯

設計

残存する手前の45は、保険の金銀パラジウム合金。
審美的な要求はなく、調整用ワイヤーなどの配置に気を使う必要はない。

試適

試適でみるのは、咬合と床の大きさ。
高い咬合力を残存歯ではなく、粘膜に支持させることがポイントとなる。
いつもならウィングの見え方に気を払うが、今回は気にせず咬合に集中できる。

仮床の咬合面観
試適咬合面観

同側面観
試適側面観

口腔内での試適の様子。銀歯ゆえ、ウイングの見え方には留意する必要はない
試適の様子

完成

審美的な要求はなかったが、一部クリアで仕上げた。
調整用ワイヤーなど、基本的な構造をとっている。

完成したAIデンチャーの咬合面
AIデンチャー(咬合面)

側面からみたもの。調整用ワイヤーがみえる
AIデンチャー(側面)

一部はクリアウイングで仕上げた
クリアウイングのAIデンチャー

口腔内でのAIデンチャー
AIデンチャー装着観

口蓋をみたもの。 非常にコンパクトで、快適な着け心地
口蓋からみたAIデンチャー

破折

何とこの患者には、義歯の破折がおこった。
あまりにもよく噛めるので、想定をはるかに超える応力がかかったためだ。
ただし、壊れたのは通常の入れ歯にも使用される人口歯。
硬質レジンでできている。
この人口歯が、割れてしまう。
約1年半後の出来事だ。
ただし、入れ歯の本体であるアルティメット樹脂には全く変化がみられない。
普段は用いることのない、強化型の人口歯に換装する。

壊れた人工歯

人工歯の破折
人工歯の破折

再び樹脂内に強化型の人工歯を配列
人工歯修理

調整用ワイヤーの破断

さらに1年半後、今度は調整用ワイヤーが破断した。
何十万回というすさまじい咀嚼により、耐えきれなくなったためである。
調整用ワイヤーの破断は、後にも先にもこの1例のみ。
このような金属部分の破損は、AIデンチャーではレーザー溶接で修理できる。

入れ歯を入れたままシリコン印象材で取り込み印象する。
床内部にもシリコンを流し、内面も同時にリベースをおこなう。
レーザー溶接により、調整用ワイヤーはよみがえった。
樹脂もすべて射出成型しなおし、ほぼ新品となった。
なお、打ちかえにあたって、樹脂は全てピンクとした。

ところが、数か月で再びワイヤーが破断。
この患者の異常なまでの咬合力に耐えるために、ワイヤーを太いものに交換することにした。
ワイヤーを通すスリットを拡大し、再射出成型。
その後の経過は問題なく、快適にお食事を楽しめている。

調整用ワイヤーの再破断。中央部で切れている
調整用ワイヤー破断

ワイヤーを太く強度のあるものに換装。
再射出成型したAIデンチャー

総論

今回のケースは、あまりにもよく噛めるため破折をおこしてしまった例である。
通常の義歯では到底不可能な咬合力を、AIデンチャーでは実現することができたためだ。
破折したとはいえ、AIデンチャーの根幹たる強靭なアルティメット樹脂には何らの影響もみられなかった。

AIデンチャーの特徴は、いかなる修理も可能であること。
これは、他のノンクラスプデンチャー(金属バネ無し入れ歯)では不可能なことである。
加えて、歯ぐきがやせても同じ樹脂で再射出成型することで、再び粘膜面をよみがえらせることができる。

図らずも、この症例ではAIデンチャーの咀嚼能力と、修理の自在性を証明することとなった。
見た目だけではなく、食べれるという点で、AIデンチャーは既存の入れ歯を圧倒する。

噛めすぎた入れ歯 完