入れ歯とばれたくない

30代後半女性。
右下の大臼歯を2本失った。
コスト的にインプラントは避けたいが、入れ歯が目立つのは絶対に嫌だとのこと。
年齢を考えると、当然の要求だ。
クリアのウイング(樹脂製の維持装置)を用いたAIデンチャーでの補綴となった。
幸い8番(親知らず)が残っており、相当の咬合能力も期待できる。

下顎顎残存歯の状況
下顎の残存歯列

模型上での残存歯の様子
模型上での歯列

設計

前後の歯にはレスト窩を設け、歯牙に負担を分散する。
AIデンチャーは、他のノンクラスプデンチャー(バネの目立たない入れ歯)と違い、入れ歯の原則からは外れない。
それゆえ、残存歯への負担は軽く、入れ歯の内面の歯ぐきがやせるといった問題は、通常義歯と遜色ない。
レスト窩にかかる義歯からのレスト(耳状の張り出し)は金属だが、小さな銀の詰め物程度なので、納得いただいた。

ウイングが目立つと予想される前方は、クリアを用いる。
クリアの樹脂があるのはAIデンチャーのみで、これこそが絶対の強み。
他のノンクラスプデンチャーの追随を許さない。

問題は調整用のワイヤーである。
前方の残存歯の間をまたぐように設置するワイヤーは、入れ歯の締め具合を調節できる優れもの。
他のノンクラスプデンチャーが緩んでしまえば終わりなのに対して、AIデンチャーでは即座に元のように復活できる。
これは、製造元のKデンタルの実用新案。
ところがクリアゆえに、そのワイヤーが透けて目立ってしまうのだ。

全体の剛性を上げて省略する手もあるが、割と口腔内が小さいので、ウイングや床を厚くするのは好ましくない。
そこで、ワイヤーのみ、歯ぐきの色に近いピンクの樹脂を巻き、その後クリア樹脂を射出成型で作成する方法を採用した。

試適

試適したところ、予想通りウイングとなる部分はかなり目立つ。
通常のノンクラスプデンチャーなら、見るに耐えないだろう。
通常のピンクは使用できない。

試適用に歯牙配列したものを咬合面からみる
試適時の咬合面観

試適用の床の側面観
試適側面観

仮床の口腔内での様子。ウイングが目立つ
試適の口腔内観

完成

クリアのウイングとピンクのワイヤコーティングを施したAIデンチャーが完成した。
特殊な設計もいいところだが、狙った通り口腔内では目立たない。

完成したAIデンチャー
完成したAIデンチャー

側面から見たAIデンチャー。ワイヤを覆うピンクの樹脂に注目
AIデンチャー側面観

口腔内での様子。目立たない
AIデンチャーの口腔内写真

総論

とにかく目立たない入れ歯ということで、調整用ワイヤーの処理に苦労した。
ウイングにピンクを使えば、ワイヤーは目立たなくなるが、ウイングは目立つ。
相反する二つを解決できたのは、AIデンチャーの材料の色にバリエーションがあったためだ。
通常のノンクラスプなら、逆に入れ歯とまるわかりだろう。

口腔内での装着観に、患者には非常に喜ばれた。
また、前後にウイングを配置したことで、食事も全く不自由しないという。
噛めないものはないとのことである。

入れ歯とばれたくない 完