ガムをかめる入れ歯
60代後半女性。
ラジオパーソナリティーを務める女性。
しゃべりやすいこと、ガムをかめることのできる入れ歯を所望。
人と対面することが多いので、口臭を気にしなくて良いよう、ガムを食べるのだそうである。
インプラントは入れたくないとのこと。
知り合いでインプラントでひどい目に会った人がいるとのことである。
残存歯の状況
模型上での残存歯
設計
欠損部後方にも残存歯があり、設計はさほど難しくはない、
前後方にウイング(樹脂製のバネ)がかかるため、維持も咬合能力も無理なく十分に発揮できる。
歯ぐきの色と樹脂の色がほぼ同じだったので、樹脂はピンク一色で仕上げる方が自然である。
無理にクリアを使わない方が良い。
試適
患者は歯ぐきがほとんど見えない、非常に設計しやすい口元。
試適の際も、樹脂の見え方にはほとんど問題がなかった。
頬側に十分な維持をとり、滑舌にかかわる内側に自由度を持たせる。
しゃべりやすい、ということを重視する設計。
笑った時に歯ぐきが見えるのを、ガミースマイルという。
北の国からの中嶋朋子さんや、戸田恵梨香さんのような口元を想像していただけるとわかりやすい。
このガミースマイルは、AIデンチャーの苦手とする症例。
とはいえ、ガミースマイルは上唇を引き上げる筋肉を弱めるボトックス注射で解決できる。
仮床を咬合面からみたもの
同側面観
完成
口蓋側の樹脂を薄く、移行的にすることでしゃべりやすく、異物感を感じにくいよう仕上げた。
調整用ワイヤーは、後方にも歯があるため、歯をまたぐ構造をとっていない。
内側から歯牙に軽く押し付けれるような構造。
条件が良かったため、可能な限りコンパクトな設計とした。
完成したAIデンチャーを咬合面からみたもの
側面からみたAIデンチャー。クリアウイングを用いていない。
調整用ワイヤーの配置
口腔内でのAIデンチャー。見た目は全くわからない
総論
見た目と咬合能力は申し分なく、非常に高く評価いただいた。
懸念していた発音も、全く問題ないとのことである。
問題が出たのは、ガムであった。
ガムをかむと、AIデンチャーの表面にくすんだように一層ガムがつくのである。
大量につくのではなく、べたべたとした表面性状になってしまうのだ。
ガムの除去は、いろいろ試していると、お湯で洗うと容易に落ちることがわかった。
また、ガムの種類によってくっついたりくっつかなかったりすることが判明。
くっつかないタイプのガムをかむことで、一応の解決を見た。
とはいえ、ガムをかむことを想定した入れ歯作りは初めてであったため、記憶に残る症例となった。
ガムをかめる入れ歯 完